史学雑誌
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歓待と差別
近世フランス王国における外国人の処遇をめぐる言説
見瀬 悠
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2022 年 131 巻 8 号 p. 1-36

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抄録

本稿は、近世フランス王国で外国人の処遇に関する規範的言説がどのように変化したのかを明らかにするために、宗教戦争期から「啓蒙の世紀」にかけての主要な法学者や哲学者の著作を外国人遺産取得権(外国人の死後財産を国王が取得する権能)に関する記述を中心に分析した。最初に「外国人」という個人のカテゴリーが中世末期から十六世紀にかけていかにして形成されたのかを確認したうえで、十六世紀後半から十七世紀前半にかけて外国人差別法の強化がいかなる法的・政治的理念によって正当化されたのかを分析し、最後にこうした思考の枠組みが自然法思想や啓蒙哲学の発展を背景にいかなる修正を求められるようになったのかを考察した。
その結果、以下の結論が得られた。まず、外国人嫌悪の風潮を背景に、王国外での生まれが生来的な欠陥や政治的忠誠の欠如に結び付けられ、外国人はフランス人とは本質的に異なる「自然的」カテゴリーとみなされた。そのため、外国人差別は「自然」で歓待とは矛盾しないと考えられ、外国人差別法はフランス人に適した法として支持された。しかし、こうした国民主義的な言説は人間共通の本性とそれに基づく権利を主張する自然法思想の発展のなかで異議申し立ての対象となる。相続能力が君主から与えられる特権ではなく人間の基本的な権利であり、国内の実定法だけでなく自然法・国際法にも属すとみなされるようになったことで、啓蒙期には外国人の権利を尊重しない制度はもはや歓待や文明性と両立しなくなるばかりか、国家の繁栄や人類の幸福を阻害する野蛮で不合理なものとして批判された。このように、近世フランス王国の外国人の処遇をめぐる言説の変容は、ルネサンス以降のヨーロッパにおける国家と法、人間と自然の関係に関する法的・政治的思想の変化のなかで理解できる。

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