抄録
本研究は,炎症歯髄の血流変化が痛み刺激によってどのような特徴を示すかを明らかにするために行った.炎症歯髄は,18カ月齢のビーグル犬(6匹)の上顎犬歯に窩洞形成を行い実験的に作製した.歯への電気刺激中および刺激終了後の歯髄血流(PBF)をlaser Doppler血流計を用いて持続的に測定した.電気刺激は,エナメル質表層や窩洞に臨床的電気刺激装置を用いて5分間行った.さらに,窩洞形成による歯髄の病理組織変化を検討した(6匹).本実験により以下の結果が得られた.1. コントロールの歯のエナメル質表層への電気刺激は,刺激中有意にPBFを上昇させ,刺激中止後のPBFは最初の値にただちに回復した.2. 窩洞形成直後の深い窩洞への電気刺激は,PBFの有意な上昇を引き起こした.刺激中止後,PBFは最初の値に緩やかに回復した.3. 窩洞形成後2週間の深い窩洞への電気刺激は,PBFを一時的に増加し,その後,PBFは刺激中にもかかわらず最初の値よりも低いレベルまで明らかに低下した.刺激中止後,PBFは低い値のままで最初の値に回復しなかった.4. 窩洞形成後2週間の歯髄病理所見は,窩洞形成直後に比較し,強い充血がみられた.これらの結果は,炎症歯髄への痛み刺激は循環障害を招き,結果として歯髄壊死となることを示唆している.