日本歯科保存学雑誌
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原著
ブタ永久歯エナメル叢中に含まれるタンパク質について
中村 ルミ
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2009 年 52 巻 5 号 p. 402-410

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抄録

本研究では,ブタ永久歯エナメル質のエナメル叢のタンパク成分を分析し,エナメル叢の形成過程を調べることを目的とした.エナメル質を0.5mol/l酢酸溶液で脱灰して,象牙質表面に残存する構造物のエナメル叢を実体顕微鏡下でピンセットを用いて採取した.このエナメル叢には多量のミネラルが残存するため,酢酸溶液を加えさらに脱灰し,可溶性画分と不溶性画分に分けて凍結乾燥し,試料とした.試料は,SDS電気泳動,質量分析,Western blottingで分析した.電気泳動後の銀染色像から,エナメル質の酢酸脱灰後のエナメル叢には,多種類のタンパク成分が存在し,質量分析とWestern blottingの結果から,その中に多量に,血液成分であるアルブミン,α-2-HS-グリコプロテイン,ヘモグロビンが,また少量であるが,エナメルタンパクであるアメロゲニン,エナメリン,シースプロテインが存在していることがわかった.血液成分については,多数の分解産物が含まれていたので,分解にかかる時間経過を考慮すると,これらが調製時の血液の混入によるのではなく,エナメル叢に固有に含まれているものと考えられた.成熟エナメル質のエナメル叢中のアルブミンの由来を検討するために,永久歯切歯の歯胚中の各種幼若エナメル質を調製し,それらについて,アルブミンをWestern blottingで調べた.その結果,エナメル象牙境のエナメル質側に存在する高石灰化エナメル質のみで反応を示した.象牙質には検出されなかった.高石灰化エナメル質は,位置的にエナメル質形成の分化期に相当する.このため,エナメル質形成の分化期中に混入した血液自体が,エナメル質中の酵素では分解されにくいことから残留し,エナメル質の結晶成長とともにアルブミンが濃縮され,多量にエナメル叢中に存在するようになったと考えられる.

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© 2009 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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