日本歯科保存学雑誌
Online ISSN : 2188-0808
Print ISSN : 0387-2343
ISSN-L : 0387-2343
原著
上皮-間葉細胞間相互作用による培養ヒトマラッセの上皮遺残細胞の細胞増殖とアポトーシス
王 鋭下西 充高橋 健菊池 雅彦
著者情報
ジャーナル フリー

2014 年 57 巻 5 号 p. 421-428

詳細
抄録

 目的 : われわれは, 上皮細胞-線維芽細胞間相互作用によってエナメルマトリックスタンパク質およびそれらを分解するプロテアーゼがマラッセの上皮遺残細胞に強く発現し, セメント質の石灰化に関与する可能性を示唆してきた. これまで, マラッセの上皮遺残が歯根膜中でアポトーシスを起こしているという報告がなされてきたが, セメント質形成におけるマラッセの上皮遺残の細胞増殖とアポトーシスの関係についてはいまだ不明な点が多い.
 材料と方法 : 本研究では, マラッセの上皮遺残由来上皮細胞と歯根膜由来線維芽細胞を同一シャーレ内で共培養し, その細胞間相互作用による細胞増殖とアポトーシスの発現に関する検討を行った. 抜歯した第三大臼歯より歯根膜組織片を採取し, 無血清混合培地により同一組織片から上皮細胞および線維芽細胞を培養した. 上皮細胞および線維芽細胞を回収し, 同じディッシュ内に混培養した後, サンプルとして実験に用いた. 細胞は, アポトーシスに関するBcl-2ファミリータンパクのBax (アポトーシス誘導タンパク) とBcl-2 (アポトーシス抑制タンパク) の発現を, 免疫染色法およびPCR法で解析した. さらに, BrdU (5-bromo-2'-deoxy-uridine) の核内取り込みによって細胞増殖を起こす細胞を確認するとともに, TUNEL (Terminal deoxynucleotidyl Transferase-mediated dUTP Nick End Labeling) 法にてアポトーシスを起こす細胞も確認した.
 結果 : 免疫染色による解析では, アポトーシス抑制性タンパクのBcl-2は上皮細胞および線維芽細胞で弱く発現した. アポトーシス促進性タンパクBaxは上皮細胞で強く発現し, 線維芽細胞で発現はみられなかった. PCR法による解析では, Bax mRNAの発現は上皮細胞のみ培養したコントロールと比較して混培養したサンプルで有意に高かった (p<0.01). その一方で, Bcl-2 mRNAの発現については有意な差は認められなかった. 混培養したサンプルの上皮細胞は線維芽細胞に比べBrdUの取り込みが多くみられ, 上皮細胞が強く増殖していることが確認された. 混培養したサンプルの上皮細胞は, TUNEL陽性核を示す細胞が観察された. 一方, 線維芽細胞にTUNEL陽性核を示す細胞は観察されなかった.
 結論 : これらの結果から, マラッセの上皮遺残は細胞増殖とともにアポトーシスを起こすことによって, ある一定の細胞集団を維持しつつセメント質の恒常性に関与することが示唆された.

著者関連情報
© 2014 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
前の記事 次の記事
feedback
Top