日本歯科保存学雑誌
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症例報告
治療に無関心であった広汎型重度慢性歯周炎患者に対し行動変容を促し自家骨移植およびエナメルマトリックスタンパク質を用いた歯周組織再生療法を行った一症例
五十嵐 (武内) 寛子沼部 幸博
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2020 年 63 巻 4 号 p. 320-326

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抄録

 緒言 : 本報では, 治療に対して無関心な広汎型重度慢性歯周炎患者に対し, 行動変容を促し治療への関心と理解が得られ, 自家骨移植術およびエナメルマトリックスタンパク質を用いた歯周組織再生療法などの歯周外科処置を行い, 現在も良好な治療経過を得ている症例を報告する.

 症例 : 患者は, 58歳の女性. 上顎の前歯が揺れていることを主訴に来院した. 上顎左側側切歯は抜歯を勧められたが, 歯を失うことに抵抗を感じ残存していた. 視診にて, 上顎左側側切歯の頰側根尖相当部歯肉より排膿を認めた. 歯肉縁上歯石の付着は認められないが, 一部, 辺縁歯肉の発赤が認められた. 4mm以上の歯周ポケットは39.8%, 特に6mm以上のポケットは22部位に認められ, BOPは27.6%であった. デンタルエックス線写真において全顎的な中等度水平性骨吸収, また, 上顎右側第一大臼歯, 上顎左側第一大臼歯および下顎左側第二小臼歯には垂直性骨吸収が認められた. 特に上顎左側側切歯には10mm以上のポケットが存在し, 広汎型重度慢性歯周炎と診断した.

 当初, 患者は上顎左側側切歯に対してのみ興味を示しており, 歯周病に関しては無関心であったため, 歯周基本治療を行う際に行動変容パターンを応用し行動変容を促した. 再評価後には, 患者も自身の口腔内に積極的に関心をもつようになり, 深いポケットが残存する部位に対し自家骨移植およびエナメルマトリックスタンパク質を応用した歯周組織再生療法を行った. 口腔機能回復治療として, 上顎右側中切歯から左側第一大臼歯に対し連結補綴装置を装着後, サポーティブ・ペリオドンタル・セラピー (SPT) へ移行した.

 成績 : SPTに移行し, 約4年経過後の再評価時には, 3mm以下の歯周ポケットが98.7%であり, 4mmの歯周ポケットを有するのは2部位であったが, いずれもBOP (−) であった. デンタルエックス線写真から, 欠損部において不透過性の亢進が認められ, PCRは7.8%であり口腔清掃状況は維持されていた. 現在は3カ月ごとのSPTを継続しており, 良好に維持している.

 結論 : 本症例では, 歯周病治療に関心を示さない患者に対し, 行動変容ステージモデルの応用は有効であり, 治療を成功に導く可能性が示された. 治療に対するモチベーションも向上し, 良好な経過を維持しているが, 長期的な安定を維持するため今後も注意深いメインテナンスを行っていく必要がある.

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