日本歯科保存学雑誌
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症例報告
歯根完成第三大臼歯自家移植後の歯髄生着についての検討
稲田 展久稲田 朱美吉村 篤利
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2021 年 64 巻 5 号 p. 348-354

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抄録

 緒言:齲蝕の進行等により保存困難な歯を抜歯した後の治療法の一つに,咬合に関与していない第三大臼歯の自家移植が挙げられる.さらに,歯根未完成歯や歯根が完成していても根尖孔の大きさが十分であれば,移植後の歯髄が生着する可能性がある.本症例では,若年者の保存困難な左右の大臼歯の抜歯後に歯根の完成した第三大臼歯を移植し,それぞれの移植歯の移植から7年後までの経過と歯髄の生着の有無を観察した.

 症例:患者は,初診時19歳の女性で,齲蝕治療を希望して来院した.多数歯に齲蝕が存在し,36,46は歯肉縁下深くまで齲蝕が進行していたため,保存困難であった.第三大臼歯は,18,28が萌出しており,歯周炎に罹患しておらず咬合に関与していなかったため,36,46の抜歯窩に移植することにした.

 成績:まず,歯肉縁下深くまで齲蝕が進行し,確実に保存不可能と思われた46を抜歯し,その抜歯窩へ18を移植した.後日,36の罹患歯質を除去し,保存の可否を確認した後に抜歯し,その抜歯窩に28を移植した.36相当部では歯頸部付近で移植歯が受容床にほぼ適合しているのに対し,46相当部では抜歯窩が移植歯よりも大きく,エックス線画像で移植歯と近心の骨壁との間に距離が認められた.移植2週間後に歯髄電気診を行ったところ,46相当部の移植歯には反応が認められなかったため,根管治療を行った.36相当部の移植歯には反応が認められたため,根管治療は行わずに経過観察した.移植3カ月後に暫間固定を除去し,両側の移植歯に動揺がないことを確認した後,レジン充塡で咬合面形態を修正した.移植7年後,両側の移植歯に咬合痛や打診痛,動揺,変色等は認められなかった.

 結論:初診時19歳の女性の保存困難な36,46を抜歯し,それぞれ28,18を移植し,7年間,機能的に問題なく経過した.46相当部の移植歯は失活したが,36相当部の移植歯の歯髄は生着しており,歯根完成歯であっても若年者の場合は移植後の経過を観察して歯内療法の要否を検討するのが適切と思われる.

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