日本歯科保存学雑誌
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症例報告
コンポジットレジンで隔壁を設置し,フロー型MTAセメントを用いて直接覆髄を行った3症例
丸山 起一荒木 孝二
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2022 年 65 巻 5 号 p. 286-293

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抄録

 目的:深在性のう蝕治療において,歯髄の保存はとても重要である.MTAセメントは高い封鎖性,抗菌性,生体適合性,石灰化組織の形成誘導能力をもつ覆髄材料として,歯髄保存療法に用いられている.MTAセメントを用いた直接覆髄はペースト型MTAセメントの初期硬化後に仮封を行い,後日仮封を除去してコンポジットレジン修復を行う方法が代表的である.ペースト型MTAセメントの操作の難しさに加え,仮封期間の微小漏洩,仮封を除去する際の切削刺激などの問題が考えられる.今回,コンポジットレジンで隔壁を設置し,操作性の良いフロー型MTAセメントを用いて直接覆髄を行う術式を考案し,直接覆髄と同日にコンポジットレジン修復を行うことができた.これまでのところ,3症例で問題なく経過しているため報告する.

 症例1:34歳,男性.上顎左側第一大臼歯に二次う蝕を認め,症状および歯髄電気診の結果から象牙質う蝕・可逆性歯髄炎と診断した.う蝕除去中に,点状露髄を認めた.露髄面にボンディングが付着しないよう保護を行い,コンポジットレジンで隔壁を設置した.次亜塩素酸ナトリウム綿球を用いて,露髄面のケミカルサージェリーを行った後,フロー型MTAセメントを充塡し,シラン処理を行った隔壁をコンポジットレジンで封鎖した.3カ月の経過観察後,正常歯髄であることを確認し,窩洞が大きかったためメタルインレーにて最終修復を行った.

 症例2:22歳,男性.上顎左側第一大臼歯近心にう蝕を認め,象牙質う蝕・可逆性歯髄炎と診断した.う蝕除去中に直径1mmほどの露髄を認めた.症例1と同様の手順で直接覆髄を行い,そのまま2級窩洞のコンポジットレジン修復を行った.

 症例3:28歳,女性.下顎右側第二大臼歯遠心にう蝕を認めた.象牙質う蝕・可逆性歯髄炎の診断の下,う蝕除去中に直径1mmほどの露髄と歯肉縁下への穿孔を認めた.症例1と同様の手順で,MTAセメントを用いた直接覆髄と歯肉縁下の穿孔封鎖を行い,コンポジットレジン修復を行った.

 結果:6~8カ月後,問題なく経過している.

 結論:コンポジットレジンで隔壁を設置し,フロー型MTAセメントを用いて直接覆髄を行い,3症例で問題なく経過している.MTAセメントによる覆髄と同日に,コンポジットレジン修復・裏層が可能となれば,直接覆髄の成功率の向上に寄与できると考えられる.今後,本術式の臨床応用が期待される.

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