日本歯科保存学雑誌
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原著
高pH環境誘導歯科材料による液体培地中のLipopolysaccharide濃度の変化
佐古 亮岩澤 弘樹倉持 仁原田(中里) 晴香石束(鈴木) 穗丹沢 聖子淺井 知宏古澤 成博
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2024 年 67 巻 2 号 p. 109-116

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抄録

 目的:グラム陰性細菌の内毒素であるLipopolysaccharide(LPS)は,根尖性歯周炎の膿瘍に認められ,根尖周囲炎症の難治化への関与が考えられている.LPSは高pH環境下で分解されるとの報告もあり,感染根管治療の成否に関わっているといっても過言ではない.水酸化カルシウムは強アルカリ環境を作り出すため,根管貼薬剤をはじめとして広く歯内療法領域で応用されている.また,ケイ酸カルシウムを主体とするMineral Trioxide Aggregate(MTA)は,水酸化カルシウムと同様の環境を誘導する材品として注目されて久しく,さまざまな場面で使用されている.高pH環境を誘導する材料は,基材や添加成分の異なるものが数多く販売されているが,それらの材品がLPSに与える影響については明らかとなっていない.そこで本研究では,高pH環境を誘導する各種材料のpH変化と,LPS濃度への影響について検討することを目的とした.

 材料と方法:本実験では,カルビタール(軟性:CV-L群,硬性:CV-P群),カルシペックスプレーンⅡ(Cal群),ビタペックス(Vit群),Bio-Cリペア(Bio群)とProRoot MTA(MTA群)の5種類の高pH誘導材料を使用した.液体培地pHの変化は,1,12時間後,1,3日後に培地上清のpH変化を測定した.LPS濃度変化の計測では,Escherichia coli由来のLPSを対象とした.液体培地中のLPS濃度は1,000ng/mLとし,培地に添加してから3日後に残存するLPS濃度をEndoLISAで測定した.

 結果:液体培地中に各種高pH環境誘導材料を浸漬してから1時間後,CV-L群,CV-P群,Cal群,MTA群が高いpHを示した.12時間後にはCV-P群,CV-L群が有意に高いpHを示し,1日後にはCal群がCV-L群とVit群よりも有意に低い値を示した.計測最終日の3日目では,Vit群がCV-P群以外の他群よりも有意に高いpHを示した.LPSの残存濃度は,Cal群で高く,CV-P群が低い傾向がみられたが,すべての群間で有意差は認めなかった.

 結論:pH環境は材品の構成により水酸基の遊離量に応じて変化が増減し,pHが上昇するとLPS濃度は低下する効果が確認された.その効果は,水酸化カルシウム製剤 「カルビタール」 を硬めに練和した場合に強く発現する可能性があるものと思われた.

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