歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
視床髄板内核の三叉神経性侵害受容ニューロンについて
福田 宏
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1991 年 54 巻 1 号 p. g51-g52

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抄録

脊髄の前側索を上行して視床に到達する痛覚伝導路は, 外側系と内側系とに大別される. 外側系は視床の特殊核である後外側腹側核で中継されたのち, 大脳皮質の体性感覚野に投射し, 内側系は視床の非特殊核である髄板内核に達し, そこから大脳の広汎な領域に投射する. ところが, 三叉神経系においては, 脊髄の外側系に対応する侵害受容情報は, 三叉神経脊髄路核尾側亜核辺縁層の特異的侵害受容ニューロンと延髄背側網様亜核外側部の広作動域ニューロンとによって中継されたのち, 視床の特殊核である後内側腹側核に達し, そこから大脳皮質の体性感覚野に投射する. これに対して, 脊髄の内側系に対応する髄板内核で中継される侵害受容ニューロンについては, その末梢受容野は一般に広く, しかも深部組織への侵害刺激に反応すると報告されており, また三叉神経支配領域に末梢受容野をもつ侵害受容ニューロンが存在していることも知られている. しかし, その詳細な研究については, まだ報告されていない. そこで, ウレタン・クロラローズで麻酔したネコを対象として, 髄板内核における三叉神経性侵害受容ニューロンの局在部位および性質を明らかにするとともに, 髄板内核の一つである外側中心核に投射する延髄尾側部ニューロンの局在部位とその性質とを調べて, 三叉神経支配領域から髄板内核への侵害受容情報の機能的意義について検討した. なお, 単一二ューロン活動の細胞外電位の導出には, 2% pontamine sky blue含有の1M酢酸ナトリウム溶液を充填したガラス毛細管微小電極を用いた. また, ニューロン活動の導出部位は, 色素を電気泳動的に注入して標識し, 組織学的に確認した. 得られた結果は, 以下のとおりである. 髄板内核である内側中心核, 外側中心核および束傍核に三叉神経支配領域から侵害受容性入力を受けるニューロンが分布していた. そして, この侵害受容ニューロンは, 角膜への圧刺激, 鼻背への叩打, 耳介, 舌および顔面への侵害性機械的刺激あるいは犬歯歯髄への電気刺激に反応したが, その末梢受容野の分布様式は延髄尾側部に存在する腹側網様亜核の侵害受容ニューロンの末梢受容野と類似していた. このことは, 腹側網様亜核ニューロンが直接的にあるいは脳幹網様体を介して間接的に髄板内核に投射していることを示唆している. そこで, 外側中心核に電気刺激を加えて, 腹側網様亜核ニューロンの反応を調べたところ, 腹側網様亜核に逆方向性に興奮する三叉神経性侵害受容ニューロンが多数検出された. しかも, この侵害受容ニューロンの半数以上は対側の外側中心核へ直接投射していることが, 歯髄への電気刺激による衝突試験によって判明した. すなわち, 三叉神経支配領域から延髄尾側部の腹側網様亜核に送られた侵害受容情報は, 直接的あるいは間接的に視床髄板内核に達し, さらに脊髄における内側系と同様に, 大脳辺縁系に上行して, 三叉神経系の痛みに伴う情動の発現に関与していると考えられると結論した.

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© 1991 大阪歯科学会
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