歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
Autonomic Regulation of Tight Junctional Permeability in the Rat Submandibular Gland
河辺 博幸
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1991 年 54 巻 1 号 p. g53-g54

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抄録

腺組織における細胞間接合装置 (junctional complex) のうち, tight junction (Tj) は物質透過に対してバリヤーとして機能する. ただし, Tjは完全なバリヤーというわけではなく, 透過する物質によってあるいは種々の条件によってはある程度の透過性があると考えられている. 唾液腺においては, 腺細胞膜を通過する分泌経路ばかりでなく, 細胞間隙を通過する分泌経路も存在することが知られている. しかし, 細胞間隙分泌経路の性状に関しては現在のところほとんど解明されていない. そこで, 本研究ではラットの顎下腺を対象として, 腺房部細胞間接合の透過性に対する副交感神経および交感神経の作用について検討した. Tjの透過性の難易を判定するためのトレーサーとして, 分子量の異なる3種類のperoxidase (lactoperoxidase : LPO ; MW=82,000, horseradish peroxidase : HPO ; MW=40,000, microperoxidase : MPO ; MW=1,630) をWistar系雄性ラットの顎下腺枝 (動脈) からカニューレを介して, 投与した. Tjの透過性に対する自律神経の影響を調べるための刺激には, 副交感神経 (鼓索神経) および交感神経 (上頚神経節) の単独電気刺激ならびに両神経の同時電気刺激を用いた. この刺激により唾液分泌も当然認められる. 各トレーサーの唾液中への分泌量はABTS-H_2O_2を用いて測定し, またその分泌経路はDAB-H_2O_2を用いて電顕組織化学的に検索し, 次の結果を得た. 鼓索神経または上頚神経節を単独電気刺激すると, MPOおよびHPOは唾液中に分泌するが, その分泌量は鼓索神経および上頚神経節の同時電気刺激時のほうが多く, HPOよりもMPOのほうが多量であった. なお, LPOはどちらの単独電気刺激によってもまた同時電気刺激によっても唾液中に分泌されなかった. 電顕組織化学的観察によると, 安静時の腺房細胞間隙のTjは3種類のトレーサーに対して非透過性を示し, バリヤー機能を果たしていた. しかし, 鼓索神経または上頚神経節の単独電気刺激によって, TjはMPOのみに透過性を示すようになった. さらに, 鼓索神経および上頚神経節を同時電気刺激すると, TjはMPOはもちろんHPOに対しても透過性を示すようになったが, LPOに対してはどの電気刺激条件においても非透過性であった. 以上のことから, ラットの顎下腺における副交感神経および交感神経の同時電気刺激によるMPOおよびHPOの透過性の増大は, 腺房部細胞のTjを介する分泌経路の透過性が増大することに基因する. この現象は, 分子量の小さいperoxidaseにおいて著明であった.

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© 1991 Osaka Odontological Society
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