歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
ガムのテクスチャーが咀嚼運動に及ぼす影響の多変量解析
河野 亘
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1991 年 54 巻 2 号 p. g73-g74

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抄録

咀嚼運動の研究において, チューインガムは安定した物理的性質を呈する被験食品として広く利用されてきた. しかしながら, チューイング中にガムのテクスチャーや重量は変化する. そこで, 一般に普及している市販ガムにおいて, チューイングによるテクスチャーや重量の経時的変化を定量的にとらえることができれば, その時点での咀嚼運動への影響を検討することができると考え, 多変量解析を応用し統計的分析を試みた. 正常被験者として顎口腔機能に異常を認めない男性正常有歯顎者8名 (22〜28歳) を選び, 被験ガムとしてロッテ社製グリーンガム3.0gを用いた. 安静に座位をとらせた被験者ごとに, ガムを10秒, 20秒, 30秒および1分, 1分30秒, 2分, 3分, 4分, 5分, 10分間チューイングさせ, 各サンプルのテクスチャー, すなわち硬さ, 凝集性, ガム性, 粘着性および付着性を全研社製テクスチュロメーター (GTX-2) で, さらに重量をHAN-SEN社製電子天秤 (HR-182) を用いて, それぞれ3回ずつ測定した. 同じ被験者において, ガムを自由にチューイングさせ, 開始直後から10分後までの下顎運動をマンディブラーキネジオグラフ (Myo-tronics, MKG K6) を用いて観察した, 咀嚼運動の各パラメータ, すなわち, 時間パラメータとして閉口相時間, 咬合相時間, 開口相時間, サイクルタイム, 移動量パラメータとして最大開口距離, 最大前後移動距離, 最大側方移動距離, 速度パラメータとして最大閉口速度, 最大開口速度を測定した. 得られた結果について相互の関連をみるために, ガムのテクスチャーおよび重量を説明変数に, 咀嚼運動パラメータを目的変数として, 多変量解析のひとつである重回帰分析を行った. さらに2名の顎機能異常患者において, 正常者と同じ条件でガムのテクスチャー, 重量および咀嚼運動を測定した. あわせて患者それぞれについて重回帰分析を行い, 正常者の分析結果と比較・検討した. その結果, 以下の知見を得た. 1) テクスチャーおよび重量は, 正常者と顎機能異常患者との間に大きな差はなく, チューイング開始直後から20秒後まではそのテクスチャーは大きく変化し不安定であるが, 30秒から1分30秒後までは, 重量の変化があるにもかかわらず, ほぼ一定のテクスチャーを示した. 2) 咀嚼運動パラメータでは, 開口相時間およびサイクルタイムにおいて, 正常者では終始ほとんど変化しなかったのに対し, 顎機能異常患者では経時的変化が著明であった. しかし, その他のパラメータは, 顎機能異常患者では正常者と比べて多少のばらつきはあるものの, ほぼ類似した傾向を示した. 3) 重回帰分析の結果, 正常者では開口相時間およびサイクルタイムを除いて, テクスチャーや重量の影響が有意であった. ところが開口相時間およびサイクルタイムは, テクスチャーや重量の変化にかかわらないパラメータであることがわかった. 一方, 顎機能異常患者では開口相時間およびサイクルタイムを含むすべてのパラメータにおいて, テクスチャーおよび重量の影響が有意であった. 以上のことから, 重回帰分析を応用すれば, 咀嚼運動が中枢性のリズム形成によって円滑に制御されているか. あるいはテクスチャーなどの末梢性ファクターによって影響を受けているかの判定が可能であることが明らかとなった.

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© 1991 大阪歯科学会
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