歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
リン酸カルシウム系結晶化ガラス表面性状とStreptococcus mutansの付着性に関する実験的研究
佐川 寛一
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1991 年 54 巻 2 号 p. g75-g76

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抄録

歯冠修復材料は, 口腔内の厳しい環境下において物理的, 化学的に安定した材料で, しかも細菌やプラークが付着しにくく, あるいは付着しても脱離しやすい材料でなければならない. 一方, 歯冠修復材料が多様化するなかにあって天然歯のエナメル質の組成, 構造に近似し, 形態再現性および生体親和性に優れた新素材としてリン酸カルシウム系結晶化ガラスが臨床応用されつつある. そこで, 本研究ではリン酸カルシウム系結晶化ガラスの表面性状について観察したのち, 口腔内細菌のStreptococcus mutansをその表面に付着させた場合の細菌付着量, 付着した細菌のSEM観察および付着面積の測定を行い, さらに, 試料表面に形成させた人工プラークの脱離性についても検討を加えた. 比較対照として, 従来から歯冠修復に用いられている12%金銀パラジウム合金および光重合型歯冠用硬質レジンを用いた. 実験には, リン酸カルシウム系結晶化ガラス (以下結晶化ガラス), 12%金銀パラジウム合金 (以下金パラ) および光重合型歯冠用硬質レジン (以下硬質レジン) を用い, いずれも10×10×3mmの試料に成形し, 仕上げ研磨まで行った. 試料の表面性状を観察するために, 3次元表面粗さ形状測定機による表面粗さの測定, および全自動画像解析製置 (以下ルーゼックス2D) による試料表面の画像解析を行った. さらに, 各試料の接触角を液滴法により測定を行った. 試料表面への細菌付着に用いた供試菌は, 齲蝕原性レンサ球菌Streptococcus mutans OMZ 175株 (以下S. mutans) で, 各試料の研暦面以外は, すべてシリコーン印象材でカバーし, [6-^3H] チミジンでラベルした供試菌を1時間付着させた. 次に付着した細菌のアイソトープ量 (cpm) を液体シンチレーションカウンターで測定し, 1cm^2当たりの細菌付着量を求め, その付着様相についてはSEM観察を行った. さらに, ルーゼックス2Dを用いて試料表面に付着した細菌の画像処理を行い, 付着面積を測定した. また, 試料表面を唾液でコーティングした場合の付着量についても同様に検討した. 次に, トリプチケイスソイブロスにS. mutansを接種し, 37℃で好気的に24時間培養して人工プラークを試料表面に形成させたのち, 超音波処理して人工プラークを試料表面から脱離させた. 人工プラークの脱離率は, 1分間脱離量を総付着量で除して求めた. これらの実験により以下の結果を得た. 結晶化ガラスの仕上げ研磨表面は, 中心面平均粗さ値で0.052μmを示し, 断面曲線でもほぼ均一な表面性状を示し, ルーゼックス2Dによるグレーレベルの範囲は, 125〜154の範囲で他の歯冠修復材料とほぼ同値であった. 結晶化ガラス表面にS. mutansを付着させた場合の初期の細菌付着量は8.O×10^7cells/cm^2で金パラの約60%, 硬質レジンの約30%であった. また唾液処理の場合, いずれの試料とも付着量は唾液未処理に比べて少なく, 結晶化ガラスでは最小値を示した. ルーゼックス2Dにおける付着面積率は, 各試料の細菌付着量の傾向と一致した. 結晶化ガラス表面の接触角は54.0゜を示し, 金パラや硬質レジンに比べると親水性の高い材料であることがわかり, 特に唾液未処理の試料においては, 接触角の大きい材料ほど細菌の付着量が増大する傾向にあった. S. mutansを用いて形成させた人工プラークの脱離率は, 結晶化ガラスで82.8%, 硬質レジン77.3%, 金パラ66.2%の順に小さくなり, 結晶化ガラスの脱離率は最大であった. 以上の結果から, S. mutansを付着させた結晶化ガラスは, 金パラや硬質レジンと比較して, その表面に細菌が付着しにくく, また付着した人工プラークは脱離しやすい材料であることが判明した.

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© 1991 大阪歯科学会
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