歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
粘性物質産生能を失ったPrevotella intermedia strain 17由来変異株の性状検索
中辻 平八
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1991 年 54 巻 4 号 p. g15-g16

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抄録

Prevotella intermediaは種々の口腔感染症から頻繁に分離され, その病原的役割は大きいと考えられている. P. intermediaは表現形質の面からも, 遺伝学的にも均一な菌種ではない. 表現形質の面では, 本菌は他の菌種との重要な鑑別性状である, 乳糖産生性が異なる臨床分離株を含んでいる. また, P. intermediaには病原性とも関連の深い, β-lactamase産生性, 粘性物質産生性あるいはlecithinase産生性などの性状を示すものもある. 遺伝学的にもP. intermediaは25611グループと33563グループとに分かれている. さらに, Leung et al. はP. intermediaを表層構造の相違により4グループに分類している. その中で, type Cの線毛を有するstrain 17はヒトの上皮細胞や赤血球に対して強い凝集能を有していることも明らかにしている. 大前と福島はstrain 17の菌体表層から線毛を分離精製し, 線毛が直接赤血球凝集性に関与していることを報告している. 本実験では, strain 17の継代培養で得られた, 粘性物質産生性を失った菌株の表現形質や細胞表層構造について検討した. 教室保存のP. intermedia strain 17の親株と粘性物質産生能を失った菌株strain 175と178を本実験に使用した. 細胞表層構造の観察は, 被験菌株を2%酢酸ウラニールでネガティブ染色し, 加速電圧100kVで観察した. 糖分解性を初めとする種々の物理化学的性状およびAPI ZYM systemによる酵素活性は, 常法により検討した. 菌体タンパクのSDS-PAGEによる泳動はKinder et al. の方法に従った. Phageの誘発は, 嫌気性菌用血液寒天培地で一夜培養後, 30秒間UV照射を行い, さらに20時間嫌気的に培養後, コロニーをかきとりネガティブ染色を行った. Plasmidの検索は, Kado & Liuの方法を若干改良して行った. Strain 175の線毛の精製は, ワーレンブレンダーによる線毛の機械的剪断, 50%飽和硫安での塩析濃縮, 35,000rpm2時間の遠心, デオキシコール酸ナトリウムによる可溶化後の35,000rpm21時間の遠心, 10〜60%ショ糖密度勾配遠心後, Butyl-Sepharose 4Bに吸着させ, 50%エチレングリコールで溶出させることにより行った. 赤血球凝集性試験は, 常法どおりに行った. Strain 17の細胞表層構造の観察では, 粘性物質と考えられる細い線維状構造とともに, type Cの線毛が認められた. 一方, strain 175では, type Cの線毛とともに幅径のより大きいtype Bに類似の線毛が観察された. Strain 178は, 粘性物質産生性も線毛も認められなかった. Strain 17とstrain 175および178との間には, API ZYMによる酵素活性を含む生化学的性状の変化は認められなかった. P. intermedia ATCC 25611とstrain 17との間には, 110K付近の主要タンパクバンドに相違が認められた. 一方, strain17, 175および178は, 極めて類似の泳動パターンを示した. UV照射で誘発されたphage粒子は, 3菌株とも同じ形態と大きさであった. Strain 175の線毛の精製の中で, ショ糖密度勾配遠心後に3つのピークが得られた. 赤血球凝集能は第1ピークと第3ピークに認められた. 第1ピークは, strain 17の線毛に対する抗血清との間に明瞭な1本の沈降線を形成したが, 第3ピークと上記血清との間には沈降線は認められなかった. 以上の結果から, strain 175と178は, strain 17由来の粘性物質産生能を失った変異株であると考えられる. これらの変異株は, 粘性物質産生性と細胞表層構造に相違が認められるが, 他の性状は親株のstrain 17とほぼ同じであるので, strain 17とstrain 175および178との系は, 粘性物質と表層構造の病原性を動物を用いて検討するうえで, 有用であると考えられる.

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© 1991 大阪歯科学会
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