歯科医学
Online ISSN : 2189-647X
Print ISSN : 0030-6150
ISSN-L : 0030-6150
54 巻, 4 号
選択された号の論文の41件中1~41を表示しています
  • 大塚 俊裕, 西川 泰央
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. 289-300
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    三叉神経脊髄路核尾側亜核および延髄背側網様亜核外側部の腹側には, 三叉神経支配領域への機械的刺激に反応するニューロンが分布する延髄腹側網様亜核背外側部が存在する.
    この部のニューロンは, 角膜への圧刺激, 耳介, 顔面および舌への侵害性機械的刺激あるいは鼻背への叩打に反応し, また犬歯歯髄への電気刺激にもしばしば反応するが, その詳細についてはいまだ不明である.
    そこで, 歯髄への電気刺激に反応する延髄腹側網様亜核背外側部ニューロン (以後, 腹側網様亜核歯髄ニューロンと呼ぶ) の性質を調べ, その機能的特性について検討を加えた. 腹側網様亜核歯髄ニューロンの大多数は, 両側上下顎犬歯歯髄への電気刺激に反応するだけでなく, 角膜および耳介などにも末梢受容野をもっていた. また, これらのニューロンのなかには, 視床髄板内核の一つである外側中心核あるいは中脳網様体への電気刺激によってそれぞれ逆方向性興奮を示すものが認められたので, 腹側網様亜核歯髄ニューロンは直接的にあるいは脳幹網様体を経由して間接的に視床髄板内核に投射していることがわかった.
    さらに, 末梢からの入力を腹側網様亜核歯髄ニューロンに中継するニューロンの局在部位は, 閂より吻側の三叉神経脊髄路核の腹内側に隣接する小細胞性網様核であることが判明した.
    以上のことから, 腹側網様亜核歯髄ニューロンは, 視床髄板内核から大脳の広汎な領域へ投射する広汎視床投射系を介して, 歯痛に伴う情動反応あるいは覚醒反応などに関与していると考えられる.
  • 橋本 和典, 杉村 忠敬
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. 301-314
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    咬合物質の大きさ 0 mmを基準として, 種々の大きさの咬合物質を片側臼歯部でかませたときの咬合力による成熟期および幼年期のサル頭蓋およびそれを構成する各骨の力学的反応, すなわちひずみの量および方向を, ストレインゲージ法を用いて測定し, その特徴, 成熟期頭蓋と幼年期頭蓋との咬合力緩衝機構の相違ならびに咬合力と頭蓋の成長および発育との関係について検討した.
    頭蓋全体に生ずる主ひずみ量は, 成熟期頭蓋では 7 mmの大きさ, 幼年期頭蓋では 3 mmの大きさの咬合物質をかませたときに最も大きかった. なお, このときに咬合力も最大となった. そして, 最大の咬合力による作業側頭蓋のひずみ量は, 平衡側頭蓋に比べて, 成熟期では約5倍, 幼年期では約 3.8 倍であった.
    主ひずみ量が咬合物質の大きさ 0 mmのときよりも大きく, かつ主ひずみの方向が咬合物質の大きさ 0 mmのときと変わらない骨ほど応力は集中しているが, 応力の集中しやすい骨は幼年期頭蓋よりも成熟期頭蓋のほうがその数は多かった. このことは, 成熟期頭蓋では各構成骨がその固有の様式によって, それに対して幼年期頭蓋では頭蓋全体によってそれぞれ咬合力を緩衝していることを示している.
    主ひずみの量および方向から, 上顎骨, 頬骨弓および側頭骨は作業側においても平衡側においても, 頭蓋に加わった力の均衡を保つうえに特に重要な役割を果たしていることおよび幼年期頭蓋の構成骨の成長および発育する方向は幼年期頭蓋および成熟期頭蓋の各構成骨の主ひずみの方向に一致していることが判明した.
  • 平塚 靖規, 神原 正樹
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. 315-332
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    フッ化物処理による歯表面性状の変化がタンパク質の吸着現象にどのような影響を及ぼすかを検索する目的で, 3段階のフッ素濃度 (0.01%F, 0.1%F, 0.9%F) のフッ化ナトリウム (NaF) 溶液およびリン酸酸性フッ化ナトリウム (APF) 溶液でそれぞれ処理したHApへの3種類のタンパク質 (ヒト血清アルブミン・HSA, トリ卵白アルブミン・CA, サケプロタミン・PR) の吸着現象を界面電気化学的に解析した.
    フッ化物処理したHApの各タンパク質溶液中におけるζ電位は, タンパク質濃度の増加にともなって上昇し, ある濃度以上において平衡吸着に達する傾向を示し, とくにPR溶液中では荷電符号の反転が見られた。得られたζ電位を解析した結果, NaFおよびAPF処理HApへの各タンパク質の吸着は, 無処理HApと同様にLangmuir型の単分子吸着であることが明らかになった. すべてのF濃度NaF処理および0.01%F-APF処理HApへのタンパク質吸着被覆率および吸着自由エネルギーは, 無処理HApとほぼ同程度の値を示し, タンパク質吸着に及ぼすFの影響は見られなかった。一方, 0.1%Fおよび0.9%F-APF処理HApへの吸着被覆率および吸着自由エネルギーは, 無処理HApと比べ著しく低い値を示し, とくにPRにおいてこの傾向が顕著に見られ, タンパク質吸着がFにより阻害された。APF処理によるHAp表面電位構造の変化および吸着タンパク質のコンフォメーションが, タンパク質のフッ化物処理HApへの吸着と密接に関連することが示唆された.
  • 太口 裕弘, 神原 正樹
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. 333-346
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    SnF2処理による歯表面性状の変化が, ペリクルの形成にどのような影響を及ぼすのかを解明する目的でSnF2処理エナメル質の接触角および合成ハイドロキシアパタイト (HAp) の界面動電位 (Zeta電位) の測定から, SnF2処理エナメル質およびHApの表面性状を検索し, このSnF2処理HApへのタンパク質吸着現象を界面電気化学的に解析した.
    SnF2処理によりエナメル質の接触角はhydrophobicに, HApのzeta電位は負に変化し, NaF系のフッ化物溶液で処理した場合と逆の表面性状を示した. 3種類のタンパク質 (HSA, CA, PR) 溶液中のSnF2処理HApのZeta電位の解析から, SnF2処理HApへのタンパク質の吸着はLangmuir型の単分子吸着であることが明らかになった. また, 吸着被覆率および吸着自由エネルギーは, 無処理HApに比べ, 吸着被覆率が各タンパク質とも低濃度から急激に高くなる傾向を示し, 吸着自由エネルギーが大きい値を示した.
    以上の結果から, SnF2でHApを処理するとHApのhydrophobisityおよび表面電位構造が変化し, 酸性, 中性および塩基性タンパク質の吸着が増加したことから, この吸着現象が静電気学的相互作用および熱力学的相互作用に支配されることが明らかになった.
  • 岩佐 勝也
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. 347-356
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    腹水型TS細胞のin vitro培養株 (CTS細胞) を対象に, 細胞集団の増殖時期に対するconditioned medium (CM) の調節作用と細胞増殖に及ぼすヒアルロン酸 (HA) 添加の影響を検討した.
    細胞増殖時期の調節に用いたCMは, 5%のウシ胎児血清を添加したDulbecco's modified Eagle培養液 (complete DME) 中でCTS細胞を7日間培養し, 培養開始0日目から7日目まで24時間ごとに回収した培養上清 (CM-0〜CM-7) である.
    Complete DME中で培養したCTS細胞は, 培養開始後4日目まで活発な増殖を続け, 5〜7日目にかけて定常状態を示した. これに対し, CMを培養液としたときのCTS細胞は, CM-0〜4中では活発に増殖し, CM-5〜7中では増殖能を減弱して定常状態を示し, complete DME中で培養したときとほぼ同じ細胞増殖パターンを再現した.
    CMで増殖時期を調節したCTS細胞に各種濃度 (0.01〜100μg/ml) のHAを作用させると, HAは増殖能が高い時期の細胞に対しては増殖を抑制し, その作用は1.0μg/mlのときに最も強かった. しかし, いずれの濃度のHAも定常期の細胞に対しては増殖を促進し, その作用は100μg/mlのときに最も強かった.
    以上の結果から, CMによってCTS細胞の増殖時期は任意に調節でき, また, 培養液に添加したHAはCTS細胞の増殖を増殖時期に応じて促進, あるいは抑制する二面性の作用をもつことが明らかになった.
大阪歯科学会例会抄録
博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
  • 九門 好彦
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g1-g2
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    糖尿病患者は細菌, ウイルスあるいは真菌などによる感染症に罹患しやすく, 治療に対しても抵抗性であるが, しかし, その本態に関しては十分に解明されていない. そこで, 本研究は糖尿病における白血球の殺菌能の低下の機序を解明するために, ストレプトゾトシン (STZ) 糖尿病ラットを作製し, 白血球の産生する活性酸素の一種であるスーパーオキシド (O_2^-) 産生能, ならびにO_2^-産生能に対するインシュリン治療の影響について検討を行った. 実験にはWistar系雄性ラット (6週齢) 53匹を用いた. 5mMクエン酸緩衝液 (pH4.5) で3%濃度に溶解したSTZ (65mg/kg) を, ラットの腹腔内に投与し, 4週間後, 血糖値が300mg/dl以上に達したものをSTZ実験群 (糖尿病群) として用いた. 糖尿病群のうちインシュリン (4units/day) を連続投与したものをSTZ-インシュリン実験群とした. 対照の正常群には実験群と同一週齢のSTZ非投与ラットを用いた. 血糖値はグルコースオキシダーゼ法, インシュリン量はワンステップ酵素免疫測定法, またスーパーオキシドジスムターゼ (SOD) はNBT還元法を用いて測定した. 白血球は, 滅菌した1%グリコーゲンで誘導したラットの腹腔マクロファージを用いた. マクロファージは, グリコーゲンの腹腔内注射4日後に腹腔滲出細胞を採取し, 0.02Mリン酸緩衝生理食塩水 (pH7.2) で2回洗浄後, 1.0×10^6cells/mlの細胞濃度になるようにペニシリン, ストレプトマイシンを含有したダルベッコ・モディファイド・イーグル培養液に浮遊させ実験に用いた. なお, 腹腔滲出細胞のうちエステラーゼ活性が確認されたマクロファージは68〜86%であり, そのviabilityはトリパンブルー染色により95%以上であることを確認して実験に用いた. O_2^-産生量はPickらの方法に準じチトクロームc還元法で測定し, SODにより抑制されるチトクロームc還元量よりO_2^-産生量を算出した. O_2^-産生の刺激物質には, オプソニン化ザイモザン (OPZ), フォルボールミリステートアセテート (PMA) およびカルシウムイオノフォアA23187 (A23187) の3種類を用いた. 白血球O_2^-産生量を各群ごとに平均値と標準誤差で表わし, 各群間の有意差検定はStudent's t-testにより行い, 次の結果を得た. 血糖値は糖尿病群では正常群と比べて有意に高値を示したのに対し, 血中インシュリン値は, 有意に低値を示した. 糖尿病群のマクロファージO_2^-産生量は, OPZ, PMA, およびA23187のどの刺激においても, 正常群と比べて有意の低下 (p<0.001) が認められた. 糖尿病群にインシュリンを投与した場合, 血糖値および体重に改善がみられた. STZ-インシュリン実験群のマクロファージO_2^-産生量は糖尿病群と比べて, OPZ, PMA, およびA23187のどの刺激においても高い傾向は認められるものの有意差はなかった (p<0.1). SOD活性は糖尿病群, STZ-インシュリン実験群および正常群の間で有意差は認められなかった. 各刺激によるO_2^-産生量と血糖値との間には, それぞれ負の相関性 (各々P<0.01) が認められた. また, 各刺激によるO_2^-産生量と血中インシュリン値との間においてもそれぞれ正の相関性 (各々P<0.01) が認められた. これらの結果から, 糖尿病の易感染性の一因として白血球の殺菌能の低下がいわれるが, その機序として0_2^-産生能の低下が関与している可能性が考えられる. また, 持続的な高血糖がO_2^-産生低下をもたらす可能性があることから, 長期にわたる血糖のコントロールが重要であることが示唆された.
  • 浜田 毅
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g3-g4
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    根管内には根尖病変の成立因子と考えられる多様な物質が存在する. これらの因子が根尖歯周組織に単独に, あるいは重複して作用して根尖病変が発症する機序については, 炎症性細胞の動態や歯槽骨の吸収など, 詳細にされていない点が多い現状である. これまでにも根尖病変を発症させるモデル因子としてウシ血清アルブミン (BSA) やリポ多糖を実験動物の根管内に単独で填入し, 細胞の動態や免疫応答の発現についての検討が行われているが, さらに実験を繰返して詳細な解明を行う必要があると考えられる。そこで, 同一物質で物理的に形状の異なる因子が根尖病変の成立におよぼす影響を解明する目的で, モデル因子としてBSAを表面に結合させたラテックスビーズ (BSAビーズ), BSAを結合させていないラテックスビーズ (ラテックスビーズ), 結晶粉末状のBSA (P・BSA), あるいは, アジュバントとエマルジョンしたBSA (L・BSA) を実験動物の根管内に填入し, 根尖病変を成立させて病理組織学的に検索を行ったので, その結果を報告する. 実験材料および方法 SD系ラットの下顎左右第一臼歯を抜髄し, #30まで形成した根管に, 1群 : BSAビーズ, 2群 : ラテックスビーズ, 3群 : P・BSA, 4群 : 100mg/ml BSA溶液と等量のフロインド不完全アジュバントとのエマルジョン, のそれぞれを填入し, 髄室をケタックセメント (ESPE) で封鎖した. 実験期間は3日, 1, 2および4週とし, 実験期間終了後, 動物を屠殺して下顎骨を摘出し, 3〜4℃の低温環境下で通法にしたがってパラフィン切片を作製した. 切片は, ヘマトキシリン・エオジン染色, あるいはマウス抗ラット卓球/マクロファージモノクローナル抗体 (Chemicon) とビチオン化ウマ抗マウスIgG抗体 (Vector) を用いたABC (Avidin : Biotinylated enzyme complex) 法による免疫組織化学的染色を施して病理組織学的に観察した. なお, 直径1μmのカルボキシル化ラテックスビーズ (Polysciences) をBSAおよび1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimideとともに4℃で2時間攪拌してBSAをラテックスビーズ表面に結合させ, 10%および58%蔗糖液による100,000×g, 2時間の濃度勾配遠心を2回行って余剰の蛋白を除去することにより, BSAビーズを調製した. 結果および結論 1. BSAビーズおよびラテックスビーズは根尖付近に多形核白血球を集積させ, のちにマクロファージを誘導した. 2. ラテックスビーズは異物肉芽腫を成立させたが, 処置後4週までにこの病変の細胞成分は著しく減少して線維化しつつある所見が得られ, 病変が早期に消退する傾向を示した. 3. BSAビーズは, 処置後2週から4週まで, 線維性結合組織に囲まれたマクロファージや泡沫細胞などを含む異物肉芽腫を成立させていた. 4. 結晶粉末状のBSAは, 全実験期間を通じて著しい細胞の集積などの組織反応を惹起することはなく, 病変は豊富な線維成分の増殖を生じて瘢痕化すると思われる所見を得た. 5. BSAとアジュバントとのエマルジョンは, マクロファージおよび泡沫細胞を含む肉芽腫様の病変を成立させた. このような病変はBSAビーズによって成立した肉芽腫と類似した所見を示していた. 以上の結果から, 根尖部における肉芽腫の形成には不溶性の微小な粒子状物質が主な原因因子となり, また, その微小粒子が抗原性を有している場合には病変内に二次的に抗体産生細胞が出現すると推察される. なお, 細胞性免疫に感作されていない状態では, 抗原性を有する微小粒子を根管内に填入しても免疫性肉芽腫は成立しないと考えられる.
  • 根住 正博
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g5-g6
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    インレー・クラウン・ブリッジ・鋳造床などに代表される歯科分野における鋳造修復物は, 近年ますますその精密化が要求されるようになってきた. 歯科界における鋳造法は, Coleman, R. L. 以来ロストワックス法による埋没材の硬化時の膨張や熱膨張を利用して金属の鋳造収縮を補う方法がとられてきた. その後, 多くの研究者によって, 鋳造技術や使用材料の改良・開発が行われた結果, 鋳造精度も大きく向上し, 臨床的に十分通用し得る鋳造体が得られるようになってきた. しかし一方では, 鋳造体をさらに詳細に研究した結果, 作製した鋳造体が蝋型と同形・同大でないことも明らかにされてきた. これらの変形の原因について, 最近では埋没材の硬化時膨張の異方性が注目されるようになり, なかでも吸水膨張が鋳型をひずませ, 変形を伴った鋳造体を作る原因となっていることが指摘されている. しかし, これらの研究に用いられた埋没材はすべて硬化時膨張と熱膨張の両者を利用したものであり, 硬化時膨張のみを用いて鋳造冠の寸法変化を観察した報告は見当たらない. そこで, 著者は硬化時の膨張のみで金属の鋳造収縮を補償することに着目し, つぎの2つの実験からその可否を検討することにした. まず実験1として, 硬化時膨張のみで熱膨張を極力小さくし, しかもリングレス法でも鋳造操作に耐え得るリン酸塩系の熱膨張抑制埋没材を試作し, 練和液として用いるコロイダルシリカ溶液の濃度を変化させたときの鋳型材としての諸性質を測定した. 次に, 実験2として, 試作した熱膨張抑制埋没材を用い, 各種濃度のコロイダルシリカ溶液で硬化膨張量を変化させて作製した鋳造冠各部の寸法変化を検討した. その結果, 以下の結論を得た. 試作した熱膨張抑制埋没材について 1. コロイダルシリカ溶液の濃度は10%, 20%, 30%, 40%とした場合, シリカ濃度が増すに従って, 硬化時間は短くなり, 圧縮強さは大きくなる傾向を示した. 2. 熱膨張抑制埋没材の硬化時膨張量は, 練和液のシリカ濃度が増すに従って大きく現われた. 冷却収縮量は, 市販埋没材と比較して非常に小さかった. 3. 緩衝材による硬化時膨張量への影響は, シリコーンラバーを用いたものが, いずれのシリカ濃度でも, カオウールを用いたものよりも膨張が大きかった. 鋳造冠の変形について 1. 咬合面部ならびに歯頚部の外側幅径は, シリカ濃度10%と20%ではリング・リングレスの埋没法ともに収縮がみられたが, 濃度が増加するに従って膨張する傾向を示した. しかし, リング法でのシリカ濃度40%では, 膨張の抑制が認められた. また, 歯頚部外側幅径の膨張は, シリカ濃度に関係なくすべて咬合面部よりも大きな値を示した. 2. 咬合面部ならびに歯頚部の内側幅径は, シリカ濃度10%ではリング・リングレスの埋没法ともに収縮を示したが, シリカ濃度が増加するに従って外側幅径と同様に膨張が大きく現われた. しかし外側幅径とは逆に, 咬合面部の値が歯頚部よりも大きくなる傾向を示した. また, 内側幅径の膨張はいずれも外側幅径より大きな値を示した. 3. 外側高径と内側高径は, 埋没法に関係なくシリカ濃度10%でともに収縮を示したが, 濃度が増すに従って膨張が大きくなった. また, 内側高径はシリカ濃度10%以外ですべて外側高径よりも大きな膨張を示した. 以上の結果から判断して, 硬化時膨張のみに依拠して鋳造冠を作製すると様々な変形が生じることが明らかとなった. したがって, 現在, 歯科界で使用されている硬化時膨張と熱膨張の両者を利用した鋳造法では, 熱膨張が関与する以前の硬化時膨張の段階で, すでに変形が起きていると考えられ, 硬化時膨張が鋳造冠の変形の主要因をなしているといえる.
  • 吉川 伸
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g7-g8
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    水酸化カルシウムは直接覆髄法や生活歯髄切断法において, 硬組織形成の促進を目的として広く臨床に応用されている. また, 抜髄根管に水酸化カルシウム製剤を応用した場合, 根尖部に新生硬組織の形成が促進されるとの報告が数多く認められる. しかし, 根尖病変を有する歯では, 抜髄例のように比較的健康な組織が根尖孔付近に認められず, 主として, 肉芽組織あるいは膿瘍の形成が認められる. このような環境下にある根尖周囲組織への水酸化カルシウムの応用は, とくに硬組織形成に関して, 抜髄例とは当然異なった影響がでるものと考えられる. そこで, 今回, 実験的に根尖病変を成立させたラット臼歯の根管内に水酸化カルシウムを応用し, 根尖部の硬組織形成と根尖病変の推移とを検索する目的で, 酵素組織化学的および病理組織学的検索を行った. 材料と方法 体重150gの雄性Wistar系ラット下顎左右側第一臼歯の髄室を開放, 放置して, 根尖病変を成立させた. 根管の拡大, 清掃および乾燥後, 水酸化カルシウムに25%の割合で酸化ビスマスを添加したものを生理食塩水で練和し, 根管内に充塞した. 髄室は, グラスアイオノマーセメントにて封鎖し, これを実験群とした. また, 根尖病変成立後, 根管の拡大・清掃を行い髄室を封鎖したのみのものを対照群とした. 実験期間は, 1週, 2週, 4週, 6週および10週とした. 各実験期間飼育後, 下顎骨を摘出し, 4℃ 0.5M EDTA-4Na溶液にて脱灰を行い, -20℃のクリオスタット内で20μmの連続凍結切片を作製した. 今回証明した酵素は, non-specific Alkaline phosphatase, non-specific Acid phosphatase, Aminopeptidase, Succinate dehydrogenase, Lactate dehydrogenase, Malate dehydrogenaseの6種類である. さらに, H-E染色による病理組織学的検索と同時に, PAS反応も行った. 結果および結論 1. エックス線写真所見および病理組織学的所見において, 根管内の水酸化カルシウムは経週的に吸収が進む傾向を示した. 組織化学的検索においても, 根管充填剤の吸収が示唆されるように, 実験群ではACPおよびPAS反応に強陽性反応を示すマクロファージが多数認められた. 2. 根尖周囲組織の状態については, 実験群で, 6週以上経過例においても根尖部に膿瘍が存在し, その周囲の肉芽組織では強いAmino.活性が認められた. しかし, 対照群では経週的に病変の縮小傾向と根尖周囲の肉芽組織の線維化が進み, 強いPAS陽性反応が認められた. 3. セメント質の新生は, 対照群で, 根尖病変を取り囲むように認められたが, 実験群では, 10週経過例においてもわずかに認められるのみであった. また, 新生セメント質表層での酵素活性は, 対照群においてALPおよびLDHに強い活性が認められたが, 実験群では対照群に比べて相対的に弱い反応を示した. 4. 根尖周囲組織内に形成された硬組織様構造物については, 実験群で2週以上経過例に, 根管充填剤に近接して新生セメント質とは異なる硬組織の形成が認められ, 一部膿瘍に取り囲まれていた. この硬組織様構造物の表層部にはALP以外の酵素群に陽性反応が認められた. しかし, 10週を経過してもこの構造物の増大は認められなかった. 以上のことから, 根尖部に大きな膿瘍が存在する状態で水酸化カルシウムを応用した場合には, 根尖部病変の治癒が遅延することが明らかになった. したがって, 感染根管に水酸化カルシウムを応用する場合には, 根管清掃や根管消毒によって, 根尖周囲組織の炎症性反応を消退させたのちに使用すべきであると考えられる.
  • 嶋本 茂生
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g9-g10
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    糖尿病患者における創傷治癒の遅延は, 細小血管症やアシドーシス, 糖・蛋白代謝異常などが関与するとされている. とくに, 細小血管症による血流の低下は, 侵襲に対する抵抗力の減弱とあわせて, 創傷治癒の遅延と深くかかわりあっていると考えられる. 今回, 著者は, 糖尿病性細小血管症の進行が, 糖尿病における創傷治癒の経過にどのように関与しているかを明らかにするために, ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットの舌に電気メスを用いて損傷を与え, Ohtaらの方法により微細血管鋳型標本を作製し, 創傷治癒過程における血管構築の変化を走査型電子顕微鏡を用いて立体的に観察した. 実験方法 ストレプトゾトシンを大腿静脈より投与することによって糖尿病を発症した. 糖尿病発症後6週, 16週, および20週の各時期に舌に損傷を与え, その後5日, 1週, 2週および4週を観察時期とした. 糖尿病発症後20週群では創傷付与後6週まで観察を行った. なお, ストレプトゾトシン非投与の健康なラットを対照群とし, 受傷後24時間, 5日, 1週, 2週, 4週と観察を行った. 実験結果 対照群では, 受傷後5日より創縁から既存の毛細血管ループが創中央へ傾斜し, この毛細血管ループから新生血管の形成が認められた. 受傷後2週では, 創面の新生固有層血管網からの新生毛細血管ループが一列に連続して配列していた. 受傷後4週では創面と創縁からの新生毛細血管は互いに吻合して, 連続した毛細血管ループを形成していた. 糖尿病発症後6週群では, 対照群と治癒過程はほぼ同様であった. 糖尿病発症後16週群では, 受傷後2週を経過しても創縁の新生毛細血管の形成は遅れ, 創面の新生固有層血管網の形成は部分的にみられるのみであった. また, この新生固有層からの新生毛細血管ループの形成が一部認められた. 糖尿病発症後20週群では, 受傷後4週でも創面の新生洞様血管は残存し, 創縁の新生毛細血管の傾斜角度は小さく, 両者に吻合は認められなかった. 受傷後6週で創面と創縁の新生毛細血管の吻合が形成され, 創面全体に新生毛細血管網が拡がったが, ループ形態は認められなかった. 以上の結果から, 創傷治癒経過は, 糖尿病発症後6週では対照群とほぼ同様であったが, 糖尿病発症16週以後では対照群に比べて遅延していることが明らかになった. 結論 糖尿病においては, 未分化間葉細胞の分裂や増殖の阻害ならびに他の細胞に対する分化や増殖への影響に加えて, 細小血管症の進行に伴う微小循環障害が発生し, 組織全体が新陳代謝の低下を起こして, 今回の観察でみられた創傷治癒の遅延をもたらすものと考えられる. すなちち, 糖尿病罹患歴が長期にわたると, 創傷の治癒は遅延する傾向にあり, 細小血管症の進行は創傷治癒に大きく関与することが示唆された.
  • 足立 裕亮
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g11-g12
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    Capnocytophagaは通性嫌気性のグラム陰性桿菌であり, 二酸化炭素存在下で発育が促進される. 本菌は, 鞭毛をもたないが, 滑走運動を行うことにより, 平板培地上で広がりをもつ特徴的なコロニーを形成する. Capnocytophagaは口腔内から分離され, とくに若年性歯周炎の歯周ポケットから高率に分離されている. Bergey's manual of systematic bacteriologyではCapnocytophagaは, C. ochracea, C. gingivalisおよびC. sputigenaの3菌種に分類されている. 当教室でも種々の口腔感染症や口腔常在菌叢からCapnocytophagaと考えられる菌株を分離しているが, 表現形質がBergey's manual of systematic bacteriologyの記載と一致せず, speciesまで同定できない菌株が多い. 本実験では, マイクロプレートハイブリダイゼーション法を用いてCapnocytophagaを同定し, 表現形質での同定との一致率について検討した. 供試菌株にはATCC strainとしてC. ochracea ATCC 27872, C. gingivalis ATCC 33624およびC. sputigena ATCC 33612の計3株および教室保存のCapnocytophagaのうち, 歯周ポケット由来株53株, 小児の白血病患者の唾液由来株3株および根尖病巣由来株1株の計57株を実験に用いた. すべての菌株に対してコロニー形態, グラム染色性, 好気やCO_2存在下での発育, グルコースからの終末代謝産物, 29種類の炭水化物の分解性, インドール産生性, 硝酸塩還元性, ゼラチン液化能, スターチとエスクリン加水分解性, カタラーゼ産生性, バイル存在下での発育, orto-nitro-phenyl-β-D-galactoside (ONPG) の加水分解性およびAPI ZYMでの酵素活性を検索した. DNAの抽出はMarmur法で, DNA-DNAハイブリダイゼーションは江崎らの方法で行った. すなわち, ATCC strainのDNAを固定したマイクロプレートの各ウエルにプレハイブリダイゼーション液で前処理し, フォトビオチンで標識した臨床分離株のDNAを含むハイブリダイゼーション液を加えた. このプレートを40℃で2時間インキュベートしたのち, β-D-ガラクトシダーゼ・ストレプトアビジンを添加し, 37℃で30分間インキュベートした. さらに, 4MUF-β-D-ガラクトピラノサイドを加えたのち, 15分おきに蛍光強度を測定した. 被験菌のATCC strainに対する相同性は, もっとも高い値を示したものを100%とし, 陰性対照のE. Coliの値を0%として計算した. 結果 1. Capnocytophagaを表現形質で同定した結果, 33株がC. ochracea, 11株がC. sputigenaおよび7株がC. gingivalisであり, 6株は未同定株とした. 2. DNA-DNAハイブリダイゼーション法では26株がC. sputigena, 24株がC. ochraceaおよび7株がC. gingivalisと同定された. 3. 表現形質およびDNA-DNAハイブリダイゼーション法で同定を行った場合の一致率はC. gingivalisでは100%であったが, 他の2菌種では20%以下であった. 本実験の結果から, Capnocytophagaの表現形質による同定ではONPGが, C. gingivalisと他の2菌種を区別するのに有効であった. トリプシン活性はすべてのC. gingivalisに認められたが, C. ochraceaとC. sputigenaにも1株ずつ産生株がみられたので, 鑑別性状にはならなかった. API ZYMを含め, C. ochraceaとC. sputigenaを区別するための性状は本実験では見当たらず, この2菌種を区別するためにはこれまでのところDNA-DNAハイブリダイゼーション法が最も有効な手段である.
  • 澤井 宏之
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g13-g14
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    黒色色素産生性Bacteroidesはヒ卜の口腔常在菌叢の構成菌として普遍的に見出され, 多くの口腔感染症からも優勢に分離されている. とくに, B. gingivalisは実験動物に膿瘍を形成すること, 種々のタンパク質分解作用を示すこと, また, 莢膜や線毛をもつことなどから有力な歯周病原細菌とみなされている. B. gingivalisの病原性状のうちtrypsinやcollagenase活性および線毛はよく研究されている. しかし, 発現した病原性状と関連の深いbacteriophageやplasmidの存在については, ほとんど研究されていない. また, B. gingivalisは血清学的には3種に分類され, 均一な種ではないと考えられている. 本研究では, 臨床分離したB. gingivalisにおけるbacteriophageとplasmidの存在を検索するとともに, photo-biotin法でDNA相同性を測定し, 病原性に関する表現形質との関連性やB. gingivalisの均一性について検討した. 菌株は重度歯周疾患患者の歯周ポケット由来株46株, 歯槽膿瘍由来株3株および根尖病巣由来株7株の合計56株と標準菌株のB. gingivalis ATCC 33277株および381株を用いた. Bacteriophageは紫外線で誘発し, 2% uranyl acetateでnegative染色後, 電子顕微鏡で観察した. Plasmidは被験菌のDNAを抽出後, agarose gel電気泳動法で検出し, 種の均一性はphoto-biotinでラベルしたDNAをhybridizeさせ, DNA相同性値を求めて検討した. 酵素活性はAPI ZYMを用いて19種とlecithinase, lipase, DNase, plasmin, coagulase, collagenaseおよびβ-lactamaseの活性をそれぞれ求めた. 細胞表層とbacteriocin様活性は通法により観察した. 結果と考察 1. Bacteriophageは歯周ポケットと根尖病巣由来株の11株で観察され, 六角形の頭部と細長い尾部を有していた. 2. Plasmidは歯周ポケットと根尖病巣由来株からそれぞれ1株ずつ検出された. 3. 臨床分離株はATCC 33277株と381株にそれぞれ高い相同性を示すグループに分かれたが, いずれの菌株も65%以上の相同性を示した. 4. 線毛は供試菌株の約90%で観察され, 幅5nm (Aタイプ) と10nm (Bタイプ) の2種類が認められ, 前者の観察頻度が著しく高かった. 5. 外膜で形成される小胞は, 供試菌株の96%で観察され, その形成量と大きさは菌株間で相違していた. 6. Alkaline phosphatase, trypsin, acid phosphatase, phosphoamidase, β-galactosidase, N-acetyl-β-glucosaminidase, collagenase, plasminとDNase活性はほとんどの菌株で, esterase (C4) 活性は50%の菌株で検出された. しかし, lecithinase, β-lactamase, lipaseとcoagulase活性はいずれの菌株にも認められなかった. 7. Bacteriocin様活性は全供試菌株でみられた. 8. β-lactam剤耐性菌は6株分離されたが, β-lactamase活性はどの耐性株にも認められなかった. しかし, plasmidは2株から検出された. β-lactam剤以外の耐性菌は5株認められた. 以上の結果から, B. gingivalisの一部はPrevotella intermediaと同様に溶原化しているものと推定される. 溶原化と酵素活性は, bacteriocin様活性および線毛との間で特別な関係は認められなかった. Plasmidはβ-lactam剤耐性を支配している可能性が示唆されたが, β-lactamase産生性は支配していなかった. 外膜での小胞形成は毛による本菌の宿主細胞への付着に続く, 菌体外への酵素分泌に関連した重要な病原因子と考えられる. DNA相同性の結果はP. intermediaとは異なり, B. gingivalisが均一な種であることを示唆している.
  • 中辻 平八
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g15-g16
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    Prevotella intermediaは種々の口腔感染症から頻繁に分離され, その病原的役割は大きいと考えられている. P. intermediaは表現形質の面からも, 遺伝学的にも均一な菌種ではない. 表現形質の面では, 本菌は他の菌種との重要な鑑別性状である, 乳糖産生性が異なる臨床分離株を含んでいる. また, P. intermediaには病原性とも関連の深い, β-lactamase産生性, 粘性物質産生性あるいはlecithinase産生性などの性状を示すものもある. 遺伝学的にもP. intermediaは25611グループと33563グループとに分かれている. さらに, Leung et al. はP. intermediaを表層構造の相違により4グループに分類している. その中で, type Cの線毛を有するstrain 17はヒトの上皮細胞や赤血球に対して強い凝集能を有していることも明らかにしている. 大前と福島はstrain 17の菌体表層から線毛を分離精製し, 線毛が直接赤血球凝集性に関与していることを報告している. 本実験では, strain 17の継代培養で得られた, 粘性物質産生性を失った菌株の表現形質や細胞表層構造について検討した. 教室保存のP. intermedia strain 17の親株と粘性物質産生能を失った菌株strain 175と178を本実験に使用した. 細胞表層構造の観察は, 被験菌株を2%酢酸ウラニールでネガティブ染色し, 加速電圧100kVで観察した. 糖分解性を初めとする種々の物理化学的性状およびAPI ZYM systemによる酵素活性は, 常法により検討した. 菌体タンパクのSDS-PAGEによる泳動はKinder et al. の方法に従った. Phageの誘発は, 嫌気性菌用血液寒天培地で一夜培養後, 30秒間UV照射を行い, さらに20時間嫌気的に培養後, コロニーをかきとりネガティブ染色を行った. Plasmidの検索は, Kado & Liuの方法を若干改良して行った. Strain 175の線毛の精製は, ワーレンブレンダーによる線毛の機械的剪断, 50%飽和硫安での塩析濃縮, 35,000rpm2時間の遠心, デオキシコール酸ナトリウムによる可溶化後の35,000rpm21時間の遠心, 10〜60%ショ糖密度勾配遠心後, Butyl-Sepharose 4Bに吸着させ, 50%エチレングリコールで溶出させることにより行った. 赤血球凝集性試験は, 常法どおりに行った. Strain 17の細胞表層構造の観察では, 粘性物質と考えられる細い線維状構造とともに, type Cの線毛が認められた. 一方, strain 175では, type Cの線毛とともに幅径のより大きいtype Bに類似の線毛が観察された. Strain 178は, 粘性物質産生性も線毛も認められなかった. Strain 17とstrain 175および178との間には, API ZYMによる酵素活性を含む生化学的性状の変化は認められなかった. P. intermedia ATCC 25611とstrain 17との間には, 110K付近の主要タンパクバンドに相違が認められた. 一方, strain17, 175および178は, 極めて類似の泳動パターンを示した. UV照射で誘発されたphage粒子は, 3菌株とも同じ形態と大きさであった. Strain 175の線毛の精製の中で, ショ糖密度勾配遠心後に3つのピークが得られた. 赤血球凝集能は第1ピークと第3ピークに認められた. 第1ピークは, strain 17の線毛に対する抗血清との間に明瞭な1本の沈降線を形成したが, 第3ピークと上記血清との間には沈降線は認められなかった. 以上の結果から, strain 175と178は, strain 17由来の粘性物質産生能を失った変異株であると考えられる. これらの変異株は, 粘性物質産生性と細胞表層構造に相違が認められるが, 他の性状は親株のstrain 17とほぼ同じであるので, strain 17とstrain 175および178との系は, 粘性物質と表層構造の病原性を動物を用いて検討するうえで, 有用であると考えられる.
  • 渡部 豊
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g17-g18
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    小学校入学時に将来の永久歯う蝕の罹患状況を予測できることは, 児童の歯科保健管理を効率よく展開するために極めて重要な事項である. そこで, 小学校1年生の定期歯科健康診断時に実施した改良Snyder testが, う蝕罹患性傾向を示す指標になり得るかを1年生から6年生までのう蝕罹患状況から追跡調査し, 加えて対象集団のう蝕罹患状況が変化した場合においても, この改良Snyder testの評価が有用な指標になり得るかを比較検討した. 対象者は, 大阪府下の某小学校に1980年から1982年に入学し, 卒業まで在籍した739名とし, 毎年5月に歯の検査を行い, また, 改良Snyder testを1年生の検査時にあわせて実施した. なお, 全対象者のうち, 373名について毎年5月と11月にリン酸酸性フッ化ナトリウムゲルを用いて歯面塗布を実施した. 改良Snyder testの個人評価は, pH指示薬B. C. G. 添加の酸性加糖高層寒天培地に唾液0.5mlを採取後, 37℃で72時間培養し, 24時間ごとの色調変化量を0.5きざみに0から4までの点数を与え, 3日間の合計値で行った. また, 改良Snyder testの集団での評価区分として2.5以下群 (L群), 3.0から4.0群 (M群) および4.5以上群 (H群) の3群に分け, 各群のう蝕罹患状況について比較した. 以上の調査により, 次の結果を得た. 1. フッ化物歯面塗布を実施しなかった対象児童 (非塗布児童) の男女合計の1年生時DMFT indexは, 0.59歯, 標準偏差0.95歯, 6年生時のDMFT indexは, 4.19歯, 標準偏差2.73歯であった. フッ化物歯面塗布を実施した対象児童 (塗布児童) では, 男女合計の1年生時DMFT indexは0.47歯, 標準偏差0.86歯, 6年生時のDMFT indexは3.13歯, 標準偏差2.16歯であり, 非塗布児童に比べ6年生時のDMFT indexで1歯以上低いう蝕罹患状況を示した. 2. 改良Synder test評価区分別の1年生時のdeft indexは, 非塗布児童および塗布児童ともL群が最も低く, 次いでM群, H群の順に高くなった. 3. 改良Snyder test評価区分別のDMFT indexの推移では, 非塗布児童および塗布児童ともL群がいずれの学年においても最も低く, 学年が進むにつれて他の2群との差が大きくなった. M群とH群との比較では, 非塗布児童で両群の差が小さく, 一方, 塗布児童ではM群がいずれの学年でもH群に比べ低く, その差も大きくなった. 4. 1年生時に永久歯う蝕を有しない児童について, 改良Snyder test評価区分別のDMF者率では, L群が最も低く, 次いでM群, H群の順に高くなった. 5. 改良Snyder test評価区分別に萌出後歯年齢を基準とした(6&mid;6)___-のDMFT rateは, 非塗布児童および塗布児童ともL群が最も低い値を示し, 次いでM群, H群の順に高くなったが, M群とH群間の差は明確なものではなかった. また, (6&mid;6)^^^-のDMFT rateは, 非塗布児童および塗布児童ともL群が最も低く, 次いでM群, H群の順に高くなった. とくに, 塗布児童のL群が低い値で5歯年まで推移した. さらに, <21&mid;12>___-のDMFT rateは非塗布児童の場合, 3群間にほとんど差は認められなかった. 一方, 塗布児童の場合, H群が最も高い値を示し, 他の2群間には差が認められなかった. 以上のことから, 1年生時に実施した改良Snyder testは, 永久歯う蝕の罹患状況の異なる両児童集団において, 永久歯う蝕の罹患性傾向の予測性が得られることが明らかとなった.
  • 堤 信之
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g19-g20
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    歯科材料の口腔機能シミュレーション下での細胞毒性試験を目ざす場合, 材料を抽出して行う方法がある. しかし, 実際に試験を遂行するうえで抽出方法, 抽出液, 抽出回数, 細胞種および判定法などに関して未だ不明な点が多い. 本実験ではこれら抽出条件が歯科材料の細胞毒性試験におよぼす影響を明らかにすべく, 歯冠補綴用材料を用いて検討を行った. その結果, 37℃で200rpmの旋回を負荷する動的抽出では, 37℃での静置抽出や121℃, 2気圧の高圧蒸気減菌器中での高温抽出に比較すると, 実験に供した材料, とくにNi-Cr合金に対して細胞毒性が明確に認められた. 抽出液の種類に関しては, 血清添加培養液では他の抽出液に比較して材料, とくにNi-Cr合金の細胞毒性が顕著に認められた. 抽出回数による細胞毒性への影響については, 実験材料中で常温重合レジンにおいて回数を重ねるとともに減少した. L-929細胞では歯肉由来初期継代培養細胞に比べ材料に対する細胞毒性が明確に認められた. 中性赤とMTTを使用した2種の判定法はともに各種材料について同じ傾向の細胞毒性データを示し, 両法間での相違は認められなかった. 以上の結果から, 今回の歯冠補綴用材料の細胞毒性試験には血清添加培養液を用い, 動的抽出で24時間を1単位として5回の抽出を行えば, 評価できることがわかった.
  • 滝本 知彦
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g21-g22
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    抽出法による細胞毒性試験において, 初期細胞数, 毒性因子の作用時間および判定法が細胞毒性に与える影響について検討した. すなわち, 種々な濃度に調整した8種類の金属塩をマウス結合織由来のL-929細胞に1日, 3日および5日間作用させ, 金属イオン濃度と細胞生存率の関係についてしらべた. その結果, 初期細胞数が多いほど, 金属イオンの細胞阻止濃度は高くなった. また, 金属イオンの作用時間が長くなるほど, 金属イオンの細胞阻止濃度は低くなった. ニュートラルレッド法, MTT法, クリスタルバイオレット法およびタンパク定量法の4種類の判定法を比較すると, 金属イオンの種類によって各判定法間で細胞阻止濃度にわずかな差が認められた. とくに, BeイオンとCuイオンにおいて, MTT法と他の判定法との間における差が顕著であった. 20%と80%の細胞阻止濃度から求めた濃度-反応曲線の傾きは, 金属イオンの種類, 初期細胞数, 毒性因子の作用時間および判定法によって異なっていた. 以上の実験結果から, 抽出法による細胞毒性試験において初期細胞数, 毒性因子の作用時間および判定法が細胞毒性評価に大きな影響を及ぼすことが明らかとなり, 今後, 歯科材料の細胞毒性試験実施に当たって有益な示唆を与えるものと思われる.
  • 上羽 博嗣
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g23-g24
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    唾液腺における自律神経機構, とくに分泌神経の伝達物質受容体の分布について検討した研究は, 大唾液腺では数多く認められるが, 小唾液腺についてはきわめて少なく, 不明の点が多い. それは, 小唾液腺では唾液の採取がきわめて困難であるために, その組成を調べることが不可能であることによる. そこで, ラットを用いて小唾液腺の一つであるエブネル腺の腺房部細胞における脱顆粒現象を指標として, 小唾液腺腺房部細胞に分布する自律神経受容体の役割を組織学的に検索した. すなわち, 交感神経性および副交感神経性の種々の受容体刺激薬ならびにsubstance Pを1種類単独に, または2種類同時にラットの腹腔内に投与し, その1時間後に, 腺 (5% glutaral-dehydeにより灌流固定) のレジン包埋, toluidine blue染色切片 (厚さ : 1μm) について, 腺房部の総面積に対する分泌顆粒の面積の百分率をコンピューター画像解析装置を用いて算出した. なお, 脱顆粒現象に対する自律神経遮断薬投与の影響 (脱顆粒現象の阻害作用) についても検討した. 得られた結果は, 以下のとおりである. 交感神経性刺激薬については, 脱顆粒現象はα_2刺激薬clonidine, β_1刺激薬dobutamineおよびβ_<1, 2>刺激薬isoproterenolの投与時には認められた. そして, この脱顆粒現象は, α_2遮断薬yohimbine, β_1遮断薬acebutololおよびβ_<1, 2>遮断薬propranololによって阻害された. なお, α_1刺激薬phenylephrineによっては脱顆粒現象は認められなかった. 脱顆粒現象は, M_2副交感神経性刺激薬carbacholによっても起こる. この脱顆粒現象は, M_<1, 2>遮断薬QNBによって阻害されたが, M_1遮断薬pirenzepineによっては阻害されないし, またM_<1, 2>遮断薬atropineによる阻害は完全には起こらなかった. Substance Pによる脱顆粒現象は, substance P遮断薬によって阻害された. また, 最も強い脱顆粒現象が観察されたのは, carbacholおよびsubstance Pの同時投与時である. なお, レジン包埋超薄切片について, 脱顆粒時の微細変動を電顕的に検索すると, α_2, β_1およびβ_<1, 2>交感神経性刺激薬ならびにM_2副交感神経性刺激薬による脱顆粒反応は, すべて同一所見であった. すなわち, 分泌顆粒数の減少, 脱腔側への分泌顆粒の移動および分泌顆粒限界膜と腺腔側膜との融合が観察された. しかし, substance Pでは腺腔側への顆粒の移動は起こらず, 細胞全域にわたる分泌顆粒数の減少が生じていることを, またcarbacholとsubstance Pとの同時投与では分泌顆粒の電子密度の著しい低下, 分泌顆粒の限界膜の消失および分泌顆粒相互の著明な融合現象を認めた. 以上の結果から, ラットエブネル腺腺房部細胞には, α_2およびβ_1の交感神経性受容体, M_2 (M_2β) 副交感神経性受容体ならびにsubstance P受容体が存在することが明らかになった. また, エブネル腺の分泌顆粒の変動様式は大唾液腺とは異なり, 交感神経性刺激でも副交感神経性刺激でもまったく同じであった. Substance P単独投与およびcarbacholとsubstance Pとの同時投与では, 分泌顆粒の消長過程で特異的な電顕像が観察されたがその機序については不明であり, 今後の検討を必要とする.
  • 花岡 繁樹
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g25-g26
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    咬合時のインプラントブリッジにおける内部応力集中部位およびインプラント周辺の下顎骨骨体における応力分布などを明らかにする目的で, 一端が天然歯支台, 他端がインプラント支台のブリッジ<(4)(5)6[◯!I]>^^^-, 以下インプラントブリッジという) または両端が天然歯支台のブリッジ (<(7)6(5)(4)>^^^-, 以下天然歯ブリッジという) を装着した麻酔下の日本ザル (5頭, 体重 : 6.2〜9.8kg) の咬筋中央部を電気刺激により収縮させて, 咬合させたときおよび第一小臼歯部, 第二小臼歯部または第二大臼歯部で木片 (厚さ3mm) をかませたときに, 第二小臼歯部および第二大臼歯部の歯根中央部に相当する下顎骨骨体 (以下, それぞれ前方部および後方部という) の表面に生ずるひずみをストレインゲージ法を用いて測定した. また, 第一小臼歯部, 第二小臼歯部または第二大臼歯部の咬合面に1kgの垂直荷重を加えたときの, ブリッジおよび下顎骨表面の変位をホログラフィー干渉法を用いて観察した. なお, 天然歯列においても同様に実験した. インプラントブリッジにおいては, どの歯でかませても, 主ひずみ量は前方部よりも後方部のほうが大きいが, どちらの部でもその主ひずみの絶対量は天然歯ブリッジおよび天然歯列における同部の値に比べて著しく小さい. 以上の現象は, インプラントブリッジにおいてインプラント周辺の下顎骨骨体には応力が集中しているにもかかわらず, この部に骨の吸収が起こらないことの原因である. 天然歯ブリッジにおいては, 前方部と後方部とでその主ひずみの方向が異なることが多い. このことは下顎骨に複雑なねじれ現象が起こっていることを示している. しかし, インプラントブリッジにおいてはこのような現象はほとんど認められない. 第一小臼歯部あるいは第二大臼歯部に荷重を加えたときには, インプラントブリッジにおいてもまた天然歯ブリッジにおいてもブリッジ全体がほぼ同じ方向に変位する. しかし, 第二小臼歯部に荷重を加えると, どちらのブリッジにおいても両小臼歯は前下方に, これに対してポンティックおよび第二大臼歯は後下方に変位するが, その変位度は天然歯ブリッジにおいてはわずかであり, インプラントブリッジにおいては著しく大きい. インプラントブリッジにおいて著明な変位が起こるのは, 荷重により両小臼歯は歯槽窩に沈下するがインプラント体は前方へ傾斜するからである. すなわち, 第二小臼歯部に荷重を加えると, インプラントブリッジにおいてはその支台歯が下顎骨に堅固に固定されているから, 歯根部を支点とした片持ばり様の変位が起こる. そして, この変位が長期間にわたって持続すると第二小臼歯とポンティックとの連結部に金属疲労が現われ, インプラントブリッジが破折する原因となる. 以上, インプラントブリッジにおいてみられる力学的現象は, 咬合力に対するインプラントブリッジと天然歯ブリッジとの緩衝機構の相違によって起こることを明らかにした.
  • 平塚 靖規
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g27-g28
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    フッ素 (F) の齲蝕予防メカニズムが歯面環境の変化により起こると考えると, 歯表面の齲蝕発症に関わる宿主, 病原, 環境因子および各因子の相互作用に及ぼすFの影響を明らかにすることは意義がある. 本研究では, 歯面へのフッ化物の応用が, 歯表面へのタンパク質の吸着現象, すなわち, ペリクルの生成にどのような影響を及ぼすかを検索する目的で, フッ化ナトリウム (NaF) 溶液およびリン酸酸性フッ化ナトリウム (APF) 溶液で処理した合成ハイドロキシアパタイト (HAp) へのタンパク質吸着現象を界面電気化学的に解析した. HApのフッ化物処理は, HAp 50mgを3種類のF濃度 (0.01%, 0.1%および0.9%) に調整したNaFおよびAPF溶液25mlに4分間浸漬し, 蒸留水にて5回洗浄後, 常温で24時間乾燥して行った. タンパク質溶液は, 等電点の異なる3種類のヒト血清アルブミン (HSA), トリ卵白コンアルブミン (CA) およびサケプロタミン (PR) をそれぞれ5段階のタンパク質濃度になるように, 1/30Mリン酸緩衝液 (pH7.0) で調整した. フッ化物処理HApへのタンパク質の吸着は, タンパク質溶液40mlにフッ化物処理HApを50mg分散させ, 室温で1時間放置して行った. ゼータ電位の測定は, レーザー光源付き顕微鏡式電気泳動装置を用い, 通法に従って行った. 得られたゼータ電位にもとづくフッ化物処理HApへのタンパク質吸着現象の解析は, 三宅らの式を用いて算出したゼータ電位の成分解析, フッ化物処理HApへのタンパク質の吸着被覆率 (θ) および吸着自由エネルギー (ΔG) から行った. HSA溶液中におけるゼータ電位は, NaF処理HApが無処理HApと同様の変動を示したのに対し, 0.01%Fおよび0.1%F-APF処理HApが, 無処理HApより有意に高い値 (P<0.05) で推移し, さらに, 0.9%F-APF処理HApが, HSAの濃度を増加しても小さい変動であった. CA溶液中におけるゼータ電位は, NaFおよびAPF処理HApともに無処理HApと同様の変動を示した. 一方, PR溶液中におけるゼータ電位は, 各F濃度のNaFおよび0.01% APF処理HApが無処理HApと同様にPR濃度増加にともない著しく高くなったのに対し, 0.1%Fおよび0.9% F-APF処理HApが小さい変動で推移し, 無処理HApに比べ有意に低い値を示した (P<0.01) そこで, 三宅らの式を用い, 得られたゼータ電位の解析を行った結果, NaFおよびAPFで処理したHApへのタンパク質の吸着がLangmuir型の単分子吸着であること, また, NaFおよびAPFで処理したHApのゼータ電位はタンパク質で覆われている部分の電位と覆われていない部分の電位との和で表わされることが確認できた. また, 式から求めたθおよびΔGは, NaF処理HApが無処理HApとほぼ同程度の値を示したが, APF処理HApでは異なった値を示した. すなわち, HSAのθおよびΔGは, APF処理濃度が0.01%, 0.1%および0.9%Fと高くなるにしたがい低くなり, CAのθおよびΔGは, すべてのAPF処理濃度において無処理HApよりも低い値を示した. さらに, PRのθおよびΔGは, 0.1%, 0.9%F-APF処理HApにおいて無処理HApに比べ, 著しく低い値を示した. 以上のことから, フッ化物処理HApへのタンパク質の吸着現象は, NaF処理により影響を受けないが, APF処理により阻害され, とくにPRで顕著であることがわかった. また, このタンパク質吸着阻害が, APF処理によるHApの表面電位構造および疎水性の変化によるものであることが示唆された.
  • 太口 裕弘
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g29-g30
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    SnF_2溶液は, フッ素 (F) によるエナメル質の耐酸性向上効果だけでなく, 歯垢付着抑制効果も持っていることが報告されている. 本研究では, SnF_2処理による歯の表面性状の変化がペリクルの生成にどのような影響を及ぼすかを明らかにする目的で, SnF_2処理によるエナメル質の接触角および合成ハイドロキシアパタイト (HAp) の表面電位構造の変化を検索するとともにSnF_2処理HApへのタンパク質の吸着現象を界面電気化学的に解析した. エナメル質のSnF_2処理は, 新鮮第一小臼歯から取り出したエナメル質ディスクを30分間超音波洗浄し, F濃度0.01%, 0.1%および0.9%に調整したSnF_2溶液にそれぞれ4分間浸漬後, 蒸留水で5回洗浄して行い, 接触角はこのSnF_2処理エナメル質をSessile Drop Methodで測定した. HApのSnF_2処理は, HAp50mgをF濃度0.01%, 0.1%および0.9%に調整したSnF_2溶液25mlに4分浸漬し, 蒸留水で5回洗浄後, 常温で24時間乾燥して行った. ゼータ電位は, SnF_2処理HApをpH7.0の1/30Mリン酸緩衝液および1mM KNO_3溶液に再分散し, 室温で1時間放置後, レーザー光源付顕微鏡式電気泳動装置を用いて通法に従い測定した. また, タンパク質溶液は, 等電点の異なる3種類のヒト血清アルブミン (HSA, pI=4.7), トリ卵白コンアルブミン (CA, pI=6.8) およびサケプロタミン (PR, pI=11.0) を用い, HApへの各タンパク質の吸着が飽和に達するタンパク質濃度までのそれぞれ5段階に1/30Mリン酸緩衝液で調整した. タンパク質溶液中のゼータ電位は, タンパク質溶液40mlにSnF_2処理HAp 50mgを再分散させ, 同様に測定した. 得られたゼータ電位の値から三宅らの式を用いて, ゼータ電位の成分解析を行うとともに各HApへのタンパク質の吸着被覆率 (θ) および吸着自由エネルギー (ΔG) を求めた. SnF_2処理エナメル質の接触角は, NaFおよびAPF処理エナメル質とは逆にhydrophobicに変化した. SnF_2処理HApのゼータ電位は, 1/30Mリン酸緩衝液中および1mM KNO_3溶液中ともに, 無処理HApのゼータ電位に比べ, 有意に低い値を示した (p<0.05). しかし, ゼータ電位に及ぼすSnF_2溶液のF濃度の影響はみられなかった. また, 各タンパク質溶液中におけるSnF_2処理HApのゼータ電位は, タンパク質濃度増加にともない高くなり, さらに, このゼータ電位の上昇が無処理HApに比べ, 低いタンパク質濃度で急激に起こる傾向を示した. ゼータ電位の解析の結果, 実測したゼータ電位の値はタンパク質が吸着している部分の電位と, 吸着していない部分の電位との一次結合で表わされていることがわかった. また, SnF_2処理HApへの各タンパク質の吸着はLangmuir型の単分子吸着であることが明らかとなった. さらに, 式から求めたSnF_2処理HApへのθの値は, いずれのタンパク質においても, 低濃度から高くなる傾向を示し, 無処理HApのθに比べ, 高い値を示した. このことから, SnF_2処理HApへのタンパク質の吸着が, 無処理HApに比べ低濃度で飽和吸着に達することが明らかになった. 一方, SnF_2処理HApのΔGの値は, 無処理HApのΔGに比べ, どのタンパク質においても高い値を示した. 以上のことより, SnF_2処理によってHApへのタンパク質吸着が促進されることが確認できた. また, このSnF_2処理HApへのタンパク質吸着促進は, SnF_2処理によるHApの表面電位構造および接触角の変化によるものであることが示唆された.
  • 原 正昭
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g31-g32
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    根管内に死腔が存在した場合, 死腔が根尖歯周組織に対して為害的に作用するとされている. しかし, 根管内死腔に侵入した肉芽組織が, 根尖歯周組織に対してどのような影響をおよぼすのかということに関しての詳細は不明である. そこで, 根尖部根管ならびに根管内死腔に侵入した肉芽組織の動態を検索する目的で, 根管模型埋入実験を行い, 根管内に侵入した肉芽組織について, 病理組織学的観察を行うとともに, 肉芽組織内に認められた^3H-thymidineによる標識細胞数を測定し, 細胞増殖活性の変化に関する観察を行った. 実験には, 主根管 (内径1mm) および長さ1, 2, 3mmのいずれかの根尖部根管 (内径0.3mm) を有する長さ10mm, 外径3mmの象牙製根管模型を使用した. これらの根管模型に対して, 根尖部根管を除く主根管を完全に充塞するように, あるいは主根管に長さ1, 2, 3mmのいずれかの死腔を付与するように根管充填を行った. 根管充填には, ガッタパーチャポイントと酸化亜鉛ユージノール系シーラーのキャナルスを使用した. 根管充填を行った模型は, 雄性SD系ラットの背部皮下組織に, 2, 4, 8, 12週間埋入した. 実験動物屠殺1時間前に, 静脈内注射により, 各ラットに1μCi/g体重の^3H-thymidineを投与した. 屠殺後, 根管模型は周囲組織とともに摘出し, 通法によりパラフィン切片とした. 切片にはオートラジオグラフィー用乳剤を塗布し, 4週間露出後に現像・定着処理を行い, H-Eにて後染色を行った. 各標本について, 病理組織学的観察および根管内肉芽組織に認められた^3H-thymidineによる標識細胞数の測定を行った. 得られた結果は以下のとおりである. 1. 根管模型埋入後, 全ての根尖部根管に肉芽組織の侵入が認められた. さらに, 埋入後2週ないし4週で1mmの根尖部根管が肉芽組織で完全に充塞され, 同じく2mmの根尖部根管は4週で, 3mmの根尖部根管は4週ないし8週で肉芽組織によって充塞された. 2. 死腔を付与しない実験群では, 肉芽組織が根尖部根管を完全に充塞した際に, 根管充填材と接する肉芽組織の先端部に壊死傾向が認められ, 同時に根管内肉芽組織の細胞増殖活性が低下した. しかし, 一部組織の壊死傾向に生体が対応するかのように, その後, 再度細胞増殖活性が上昇した. 肉芽組織が根尖部根管を充塞後の術後12週において, 1mmの根尖部根管内の肉芽組織に壊死傾向はほとんど認められなかった. しかし, 2mmおよび3mmの根尖部根管内の肉芽組織は変性壊死傾向を示した. 3. 死腔を付与した実験群では, 根尖部根管を肉芽組織が充塞した際に細胞増殖活性の低下は認められず, 比較的連続した肉芽組織の増殖傾向が観察された. 1mmおよび2mmの根尖部根管内の肉芽組織は, 根尖部根管を充塞後, 死腔内に侵入増殖し, 埋入後12週でも根尖部根管内の肉芽組織は細胞増殖活性を維持し, さらに死腔内への肉芽組織増殖傾向を示唆した. これに対して, 3mmの根尖部根管内の肉芽組織は, 埋入後12週でも死腔内への侵入増殖は観察されず, 同時に肉芽組織先端部に細胞増殖活性はほとんど認められなかった. したがって, これ以後の死腔内への肉芽組織の侵入増殖は認め得ないと推察された. 以上の結果, 臨床的にみて, 根尖部に残留する未処置の根管が1mm以内の場合は, 根管内死腔の有無とは無関係に, 根管内に侵入する肉芽組織は生活力を保持し, 根尖歯周組織に対して影響をおよぼす可能性は非常に少ないが, 2mm以上の未処置の根管が根尖部に残留すると, 根管内に侵入する肉芽組織は変性壊死を呈し, 根尖歯周組織に病変を成立させる可能性が高いことが本実験から示唆された.
  • 橋本 和典
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g33-g34
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    成熟期および幼年期のサル頭蓋およびそれを構成する両側の下顎骨臼歯部骨体部, 上顎骨臼歯部骨体部, 頬骨弓前部, 頬骨弓後部, 側頭骨鱗部, 頭頂骨中央部および側頭骨顎関節周辺部における咬合時の力学的反応を, ストレインゲージ法を用いて測定し, 咬合物質の大きさに起因する咬合力緩衝作用の特徴, 成熟期頭蓋と幼年期頭蓋との咬合力緩衝機構の相違ならびに咬合力と頭蓋の成長および発育との関係について検討した. 頭蓋全体に生ずる主ひずみ量は, 成熟期頭蓋では咬合物質の大きさが大きくなるにつれて増大し, とくに咬合力が最も大きい7mmの大きさにおいて最大となった. これに対して, 幼年期頭蓋では咬合力が最も大きい3mmにおいて最大で, 5mmおよび7mmでは対照 (咬合物質の大きさ : 0mm) よりも減少した. 以上の現象は, 未成熟な幼年期頭蓋では咬合物質の大きさに咬合あるいは咀嚼運動が適応できず, 咬合力が小さくなり, その結果主ひずみ量は小さくなるのに対して, 成熟期頭蓋においては咬合物質の大きさに対する顎運動の適応作用が生理的になることによる. 作業側の主ひずみ量 (作業側, すなわち咬合側の頭蓋に生ずる主ひずみ量の総和) は, 咬合物質が大きくなるにつれて成熟期頭蓋では増大するが, 幼年期頭蓋では減少する, それに対して, 平衡側 (非咬合側) においては, 成熟期頭蓋ではどの大きさの咬合物質においても対照よりも小さいが, 幼年期頭蓋では対照に比べて咬合物質の大きさが3mmのときには著しく, また5mmのときにはわずかに増大するが, 7mmのときには逆に減少する. なお, 作業側の主ひずみ量は, 成熟期頭蓋でも幼年期頭蓋でも, またどの大きさの咬合物質においても, 平衡側よりも大きい. 以上のとおり, 主ひずみ量の大きさは咬合物質の大きさに応じて増大したり, また減少したりするが, それは頭蓋を構成する各骨によって異なる. 各構成骨の主ひずみ量が対照よりも増大したとき, 主ひずみの方向が対照と変わらなければその部位には応力が集中しているし, その方向が変わればその部位の応力は分散している. 咬合物質を大きくすると前者の現象が認められる骨は, 成熟期頭蓋では作業側の下顎骨, 頬骨弓前部, 頬骨弓後部および側頭骨ならびに平衡側の上顎骨, 頬骨弓前部および側頭骨であり, 幼年期頭蓋では作業側の頬骨弓前部および頭頂骨ならびに平衡側の上顎骨および下顎骨である. このように, 応力の集中する骨の種類は成熟期のほうが多い. 咬合物質の大きさと成熟期および幼年期の両頭蓋の各構成骨の咬合力緩衝作用に著明な相違は頬骨弓後部, 側頭骨および頭頂骨で認められた. 頬骨弓後部は, 成熟期では作業側でも平衡側でも咬合物質が大きくなっても咬合力を十分に分散することができるが, 幼年期ではこの機能が十分に発揮されない. 成熟期の側頭骨は咬合物質が大きいときには作業側に, 小さいときには平衡側に応力が集中するが, 幼年期の側頭骨ではこの現象は認められない. また, 頭頂骨においては, 幼年期では作業側に応力が集中することがあるが, 成熟期では集中しない. 以上の現象は, 成熟期頭蓋では頭蓋の各構成骨がその位置および形状に基づいて, それぞれ独自に咬合力を緩衝しているのに対して, 幼年期頭蓋では各構成骨は単独では十分に緩衝することができないから, 頭蓋を構成するすべての骨が一体となって緩衝していることによる. 咬合時に生ずる主ひずみの伸展ひずみの方向は, 頭蓋を構成する各骨が成長し, 発育する方向を決定していることを確認した.
  • 杉澤 通司
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g35-g36
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    Substance Pを血中に投与したときには, 強い唾液分泌作用が現われること, また唾液腺細胞にはsubstance Pに結合するreceptorが存在することが知られている. しかし, 唾液分泌においてsubstance Pがどのように機能しているかは, 具体的には明らかにされていない. そこで, ラットの顎下腺を対象として, 腺房部細胞における水の分泌および顆粒管細胞における脱顆粒現象に対するsubstance Pの役割について検討した. 得られた結果は, 以下のとおりである. 唾液分泌速度は, 鼓索神経 (副交感神経) 電気刺激の刺激頻度が大きくなると増大し, 20Hzで最大となった. また, cholinergic muscarinic receptor antagonistのatropineを前処置 (5mg/kg) すると, 0.5〜60Hzの電気刺激によって起こる唾液分泌を著しく抑制したが, 完全に停止させることはできなかった. さらに鼓索神経を持続的に電気刺激すると, atropine抵抗性のこの唾液分泌反応は5分以内に刺激直後の40%以下に急激に低下した. Substance Pのantagonistである[D-Arg^1, D-Pro^2, D-Trp^<7, 9>, Leu^<11>]-substance P (1mg/kg) を投与すると, 鼓索神経電気刺激の刺激頻度が20Hz以上のときには唾液分泌を抑制したが10Hz以下のときには効果を認めなかった. また, 腺組織内のsubstance P量は, 鼓索神経を持続的に長時間, 20Hzで刺激すると, 時間の経過とともに減少し, 刺激後1時間で対照の約50%となり, substance Pは腺内のsubstance P含有神経線維から消失していることが電顕免疫組織化学的にも確認できた. 腺組織内のsubstance Pを電気刺激によって減少させたのちに, substance Pを動脈を介して投与すると, 鼓索神経刺激に対する唾液分泌が回復した. なお, 上頚神経節 (交感神経) の電気刺激による唾液分泌は, atropineおよびsubstance Pのantagonistによって影響を受けなかった. また, 腺組織内のsubstance P量は上頚神経節の電気刺激によって減少しなかった. 顆粒管細胞における分泌顆粒は, 鼓索神経電気刺激およびsubstance Pの投与によって脱顆粒しなかった. 以上のことから, substance Pには, acetylcholineとともに神経伝達物質として機能して, とくに唾液分泌の初期に唾液分泌量を急激に増加させる働きがあると考えられる.
  • 大塚 俊裕
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g37-g38
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    三叉神経脊髄路核尾側亜核の腹内側に隣接する延髄外側網様体には, 三叉神経支配領域からの侵害受容性入力を受ける三叉神経性侵害受容ニューロンが分布している. この延髄外側網様体は, 延髄背側網様亜核外側部と脊髄の第VII層に対応すると考えられている延髄腹側網様亜核背外側部とに分けられる. 前者の三叉神経性侵害受容ニューロンは視床の後内側腹側核固有部に投射する広作動域ニューロンであり, 大脳皮質体性感覚野へ投射する痛覚伝導路の二次ニューロンとしての機能をもっていることが, すでに明らかにされている. ところが, 後者のニューロンについては, ほとんど解明されていない. そこで, このニューロンのうち, 歯髄からの入力を受けるニューロン (以後, 腹側網様亜核歯髄ニューロンと呼ぶ) の投射様式あるいは歯髄入力を腹側網様亜核歯髄ニューロンへ中継するニューロンの局在部位を調べ, 腹側網様亜核歯髄ニューロンの機能的意義について検討した. 実験動物には, ウレタン・クロラローズで麻酔したネコを用いた. そして, 単一二ューロン活動の細胞外記録には, 2% Pontamine sky blueを加えた0.5M酢酸ナトリウム溶液を充填したガラス毛細管微小電極を用い, 電気泳動的にガラス毛細管微小電極から色素を記録部位に注入し, 生体染色を施した. そして, 脳を灌流固定したのち, 記録部位を組織学的に同定した. また, 視床あるいは中脳に電気刺激を加えて, 逆方向性に興奮する腹側網様亜核歯髄ニューロンを検出した. なお, 逆方向性興奮をしているかどうかを検証するには, 100Hz以上の高頻度刺激に, 一定の潜時で, スパイク発射が追従することおよび同一軸索において順方向性興奮によるスパイク発射と逆方向性興奮によるスパイク発射とが衝突することを示唆する所見が認められることを基準とした. 得られた結果は, 以下のとおりである. 腹側網様亜核歯髄ニューロンの大多数は, 両側上下顎犬歯歯髄への電気刺激に反応するだけではなく, 角膜, 耳介, 顔面, 鼻背あるいは舌などにも末梢受容野をもっていた. これらのニューロンのなかには, 視床髄板内核の一つである外側中心核あるいは中脳網様体への電気刺激によって逆方向性興奮を示すものが認められたので, 腹側網様亜核歯髄ニューロンは直接的に, あるいは中脳網様体を経由して間接的に視床髄板内核に投射していることが判明した. さらに, 末梢からの歯髄入力を延髄腹側網様亜核背外側部に中継するニューロンの局在部位は, 三叉神経脊髄路切断術による実験成績から三叉神経脊髄路核の腹内側に隣接する小細胞性網様核であることが明らかとなった. 以上のことから, 腹側網様亜核歯髄ニューロンは, 視床髄板内核から大脳の広汎な領域へ投射する広汎視床投射系を介して, 歯痛に伴う情動反応あるいは覚醒反応などに関与していると考えられる.
  • 西川 義公
    原稿種別: 本文
    1991 年 54 巻 4 号 p. g39-g40
    発行日: 1991/08/25
    公開日: 2017/02/23
    ジャーナル フリー
    歯周外科処置の代表的な術式である歯肉剥離掻爬術の創傷治癒に関して, 従来より多くの病理組織学的研究がなされてきた. 組織の修復を検討する場合, いろいろな角度からのアプローチがあるが, 修復組織に対し血液を供給する血管について一連の動態を知ることは, 全層歯肉弁剥離による歯肉剥離掻爬術の治癒機構を知るうえで重要な意義をもつと考えられる. しかしながら, 全層弁により歯肉を剥離したのち, その治癒にかかわる創傷周囲の血管構築を立体的組織関係を損なうことなく観察した報告はみられない. 本研究は, 全層歯肉弁剥離後の修復過程にともなう血管構築の連続変化について, 微細血管鋳型標本を主体に走査電顕的に観察を進め, それと同時に光顕的所見によって裏付けを行いつつ, 血管構築パターンとの関連について比較検討した. 実験には雑種成犬48頭を用い, 上顎左側前歯部&mid;<I_2>___-, &mid;<I_3>___-を被験部とし, 頬側歯肉を全層弁で剥離後, 弁を復位縫合した. 観察期間は術後5, 7, 14, 21, 28, 42日とし, 治癒過程にともなう歯肉骨膜血管網ならびに歯根膜血管網の形態変化を中心に検索を進めた. 術後5日では, 剥離された歯肉骨膜血管網の血管壁から新生血管の出芽を認め, 樹脂の漏出もともなって, 歯肉骨膜血管網の網目間隙に洞様新生血管を形成していた. 一方, 歯根膜血管網は, その歯槽窩壁側ならびに歯根側に向かって新生血管を形成し, Volkmann管開口部を中心とした骨吸収が開始していた. 術後7日では, 歯肉骨膜血管網の網目に発達した洞様新生血管が認められた. 一方, 歯根膜血管網の血管は歯槽窩壁の骨吸収をともなってループ化した新生血管を形成し, 5〜6本が縄状に絡み合った血管束に変化していた. さらに, 新生血管の下層では骨吸収が進行し, Volkmann管周囲の骨がさらに破壊されていた. このように骨吸収が進んだ部位を介して, 歯肉骨膜血管網と歯根膜血管網が数多くの新生血管により交通し, 血行の回復が認められた. 術後14日では, 歯肉骨膜血管網の網目を埋めるように新生血管が発達し, 歯槽骨表面の骨吸収形態に一致して糸球体様を呈する部分も認められた. 一方, 歯根膜血管綱は依然として複雑な血管像を呈し, その新生血管量ならびに骨吸収量から考えて歯根膜腔の幅が最も拡大したといえる. 術後21日では, 歯肉骨膜血管網に形成された糸球体様の新生血管が徐々に整理, 消失し, 歯槽骨表面にも層状の骨添加が認められた. 一方, 歯根膜血管網において縄状を呈していた歯根膜血管網も整理され, 網目形態への移行を示すとともに, 歯槽窩壁側の血管が新生骨内に埋入した部分も観察された. 術後28〜42日では, 歯肉骨膜血管網から形成された新生血管は口径を減じ, 粗な血管網に変化していた. また, 歯槽骨表面は, 新生骨の添加により骨面が平滑化された. しかしながら, 術後42日においても本来の歯肉骨膜血管網への回復は認められなかった. 一方, 歯根膜血管網の歯槽窩壁側に分布する血管は稜状の新生骨形成によって骨中に埋入し, 歯根膜腔の幅も減少していった. そして術後42日になると, 歯槽窩壁は平坦な形態に回復し, 歯根膜血管網も対照側に比べやや分布密度が高いものの, 本来の2層構造の血管構築に回復していた. 以上の実験結果より, 全層歯肉弁剥離後の創傷治癒初期過程において, 歯肉骨膜血管網と歯根膜血管網との循環路の回復は, 歯根膜血管網から積極的な回復機序が行われていた. さらに, このような循環路の回復過程に起因して一時的に歯の支持機能が低下するため, 術後の治癒過程にある組織保護に対しては, 慎重な臨床的対応が必要である.
feedback
Top