歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
SnF_2溶液処理合成ハイドロキシアパタイトの表面性状およびタンパク質吸着に関する研究
太口 裕弘
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1991 年 54 巻 4 号 p. g29-g30

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抄録

SnF_2溶液は, フッ素 (F) によるエナメル質の耐酸性向上効果だけでなく, 歯垢付着抑制効果も持っていることが報告されている. 本研究では, SnF_2処理による歯の表面性状の変化がペリクルの生成にどのような影響を及ぼすかを明らかにする目的で, SnF_2処理によるエナメル質の接触角および合成ハイドロキシアパタイト (HAp) の表面電位構造の変化を検索するとともにSnF_2処理HApへのタンパク質の吸着現象を界面電気化学的に解析した. エナメル質のSnF_2処理は, 新鮮第一小臼歯から取り出したエナメル質ディスクを30分間超音波洗浄し, F濃度0.01%, 0.1%および0.9%に調整したSnF_2溶液にそれぞれ4分間浸漬後, 蒸留水で5回洗浄して行い, 接触角はこのSnF_2処理エナメル質をSessile Drop Methodで測定した. HApのSnF_2処理は, HAp50mgをF濃度0.01%, 0.1%および0.9%に調整したSnF_2溶液25mlに4分浸漬し, 蒸留水で5回洗浄後, 常温で24時間乾燥して行った. ゼータ電位は, SnF_2処理HApをpH7.0の1/30Mリン酸緩衝液および1mM KNO_3溶液に再分散し, 室温で1時間放置後, レーザー光源付顕微鏡式電気泳動装置を用いて通法に従い測定した. また, タンパク質溶液は, 等電点の異なる3種類のヒト血清アルブミン (HSA, pI=4.7), トリ卵白コンアルブミン (CA, pI=6.8) およびサケプロタミン (PR, pI=11.0) を用い, HApへの各タンパク質の吸着が飽和に達するタンパク質濃度までのそれぞれ5段階に1/30Mリン酸緩衝液で調整した. タンパク質溶液中のゼータ電位は, タンパク質溶液40mlにSnF_2処理HAp 50mgを再分散させ, 同様に測定した. 得られたゼータ電位の値から三宅らの式を用いて, ゼータ電位の成分解析を行うとともに各HApへのタンパク質の吸着被覆率 (θ) および吸着自由エネルギー (ΔG) を求めた. SnF_2処理エナメル質の接触角は, NaFおよびAPF処理エナメル質とは逆にhydrophobicに変化した. SnF_2処理HApのゼータ電位は, 1/30Mリン酸緩衝液中および1mM KNO_3溶液中ともに, 無処理HApのゼータ電位に比べ, 有意に低い値を示した (p<0.05). しかし, ゼータ電位に及ぼすSnF_2溶液のF濃度の影響はみられなかった. また, 各タンパク質溶液中におけるSnF_2処理HApのゼータ電位は, タンパク質濃度増加にともない高くなり, さらに, このゼータ電位の上昇が無処理HApに比べ, 低いタンパク質濃度で急激に起こる傾向を示した. ゼータ電位の解析の結果, 実測したゼータ電位の値はタンパク質が吸着している部分の電位と, 吸着していない部分の電位との一次結合で表わされていることがわかった. また, SnF_2処理HApへの各タンパク質の吸着はLangmuir型の単分子吸着であることが明らかとなった. さらに, 式から求めたSnF_2処理HApへのθの値は, いずれのタンパク質においても, 低濃度から高くなる傾向を示し, 無処理HApのθに比べ, 高い値を示した. このことから, SnF_2処理HApへのタンパク質の吸着が, 無処理HApに比べ低濃度で飽和吸着に達することが明らかになった. 一方, SnF_2処理HApのΔGの値は, 無処理HApのΔGに比べ, どのタンパク質においても高い値を示した. 以上のことより, SnF_2処理によってHApへのタンパク質吸着が促進されることが確認できた. また, このSnF_2処理HApへのタンパク質吸着促進は, SnF_2処理によるHApの表面電位構造および接触角の変化によるものであることが示唆された.

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© 1991 大阪歯科学会
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