1993 年 56 巻 5 号 p. 376-384
診療中および技工作業中に金属やレジンの削片などを歯科の職員は吸引する機会が多い。今回、われわれは歯科医療関連職員の肺汚染の状態を定量的に検索した。
肺癌の脳転移が認められた歯科技工士の病理解剖を経験し、肺、肝および腎における各種金属の濃度を熱中性子放射化分析法で測定した。また、対照として生前一般事務職に従事し、死亡した肝癌患者についても、同方法にて各種金属の濃度を測定し、比較検討した。その結果、歯科技工士の肺における Au, Co, Cr, V および Zn の各元素の濃度は他職種従事者より高かった。これらの元素は歯科用金属にかなり含まれている。歯科技工士の職を退いて10年近く経過してもなおこれらの元素は肺に残存することが明らかとなった。
Au や Cr は金属アルレギーのそして Cr は癌の原因物質とも考えられているので、他の職種従事者と比較して肺に多く沈着していることから、肺への悪影響が懸念され、職場環境の改善が望まれる。