歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
舌背粘膜の実験的熱傷の治癒過程について:組織ならびに微細血管構築の修復
方 一如
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1993 年 56 巻 6 号 p. g37-g38

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抄録

口腔粘膜は高温の飲食物による熱傷に遭遇する機会が多い. また口腔粘膜は, その構造ならびに機能上から被覆粘膜, 咀嚼粘膜, 特殊粘膜に分類されている. 外力に侵害される点からいえば, とくに特殊粘膜に属する舌背の粘膜が他の部分の粘膜に比べて頻度が高い. 著者ほ熱傷の治癒についてつねに論議される第 II 度熱傷 (水疱形成) を実験的に惹起させ, 損傷を受けた組織の修復状況を経時的に追究し, その修復に貢献する微細血管構築の連続的変化について, 肉眼, 組織学的ならびに微細血管鋳型の三者を同時に比較しつつ検索し, 一般の第 II 度熱傷の修復像とも比較を試みた.
本研究は Wistar 系ラット 204 匹を用い, 実験的熱傷発症用に木柄をつけた金属円柱形プローべ (直径 3 mm, 長さ 10 mm) を作製した. 80℃ に加熱した金属プローべを舌尖後方の舌背の片側の粘膜に接触させ, 水疱形成を認めた個体を実験観察群とした. 実験直後から 24 時間以内と, 2 日から 42 日までの 16 期間について観察した. 肉眼観察には, 生体のまま表面から熱傷部を継続観察したのち, 同部の連続組織切片について光顕観察を行った. また固定, 凍結乾燥を行い, 金蒸着を施して走査電顕で観察した. 一方, 上行大動脈からアクリル樹脂を注入し, 舌背実験部の微細血管鋳型を走査電顕によって観察した.
舌背粘膜の熱傷の治癒過程は, 水疱形成, 同退縮期, 潰瘍期, 上皮修復前期および上皮修復後期の5期に区分することができた. 水疱形成期では固有層毛細血管は拡張し筋線維の横紋は消失していた. 糸状乳頭は不規則な配列となり, 乳頭間距離, 毛細血管ループの上・下行両脚間および細静脈網網目それぞれが拡大していた. 水疱退縮期では, 水疱上皮が一部脱落し, 固有層乳頭と毛細血管は消失していた. 糸状乳頭の毛細血管ループ全体, 細静脈網網目と, 固有層と筋層の毛細血管も消失し, 細動・静脈だけが認められた. 潰瘍期には創辺縁の粘膜上皮が隆起し, 表面には放射状溝が認められ, 創中心部が陥凹していた. 創辺縁部にある糸状乳頭の毛細血管ループは創中心に傾斜し, ループの先端は膨大していた. 上皮修復前期では, 粘膜上皮が創周縁から創面全体に伸展しており, 瘢痕形成のために創中心を横断している溝が認められたが, 粘膜の各構成層はすでに明瞭となっていた. 創縁から創中心まで糸状乳頭が新生しており,創縁の既存毛細血管や創底からの新生毛細血管が吻合して網目を形成し, これから毛細血管ループが新生していた. 創中心では新生洞様血管が緻密な血管綱を形成していた. 上皮修復後期では, すでに創面の粘膜上皮は修復されているが, 固有層にはまだ幼若な結合組織がみられ, 創部にはすべて新生糸状乳頭が認められた. これは非実験群と同様の像を呈していた. 創縁から創中心へと新生毛細血管ループは正常型となり, 42 日後にはこれらは完全に修復されていた.
結論として, 舌背粘膜は他部の粘膜と異なり固有層乳頭が発達した糸状乳頭を有しているが, 第 II 度熱傷をうけた口腔粘膜と微細血管構築が治癒状態となるには約 6 週を要することが明らかになった. 本研究によって中等度の口腔粘膜熱傷の詳細な組織修復と, これに貢献する微細血管構築の変化の相互関係が明らかにされた.

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© 1993 大阪歯科学会
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