歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
ヒト口腔癌ヌードマウス移植系におけるエタノール局注併用局所温熱療法の効果
井口 利彦
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1995 年 58 巻 1 号 p. g41-g42

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抄録

近年, 温熱療法は悪性腫瘍の治療法の一つとして確立され, 放射線療法, 化学療法との集学的治療も一般的になってきた. さらに治療効果を高める手段として血流を修飾する薬剤との併用療法も試みられている. 腫瘍血流量に関しては, エタノールの局注にてそれを減少させるとの報告があり, 温熱療法と併用すれば抗腫瘍効果の増大が期待される. そこで, 著者はエタノール局注を併用した温熱療法の抗腫瘍効果に関する報告が皆無である点に着眼し, ヒト口腔癌ヌードマウス移植系における本療法の価値について検討を行った. 実験材料および方法 実験腫瘍としてはKB細胞(poorly differentiated epidermoid carcinoma)を用いた. 実験動物は4週齢の雌のヌードマウス(BALB/cA)で, その大腿皮下に固形腫瘍を挿入移植し, 移植20日後, 腫瘍長径が約8mm前後になったものを1群7匹として実験に供した. エタノールは99.5v/v%エチルアルコールを用い, 固形腫瘍に局注投与した. 加温はデジタル恒温槽を用いヌードマウスを全身麻酔後, 著者が作製した固定具に入れ, 腫瘍の近心側が水面下約1cmになるようにテープで固定し, 局所加温を行った. 抗腫瘍効果の判定は, 担癌無治療群を対照群とし, 各群の相対平均腫瘍重量比の比較で行った. 方法としては, まず腫瘍の短径(a), 長径(b)をノギスで測定し, 推定腫瘍重量[W(mg)=(a^2×b)/2]を得た. ついで各群の相対平均腫瘍重量比(relative mean tumor weights, RWh=Wn/Wo, day nとday 0)を算出した. また, 実験開始後10および20日目の各群2匹ずつの腫瘍組織を採取し, 病理組織学的検討を行った. エタノール局注併用局所温熱療法に先だって, エタノール, 加温それぞれの単独群について実験を行った. エタノールについては推定腫瘍重量あたり0.1, 0.2および0.3ml/gを, 加温については41, 43および45℃, 30分間加温を3日間隔で3回行い, その抗腫瘍効果を検討した. その結果45℃単独群では腫瘍が完全に消失した. 以上の単独群の実験結果から, 併用群は, エタノール0.1, 0.2あるいは0.3ml/g, 加温41あるいは43℃, 30分間加温のそれぞれを組み合わせ, 3日間隔で3回行うこととした. なお, 併用群におけるエタノールの投与は加温1時間前に行った. 併用効果の判定は, 実験開始後20日目の相対腫瘍重量によるT/C比(T/C of the relative mean tumor weights, T_<RW>/C_<RW>, T: 治療群, C: 対照群)の値を用い, 併用群のT/C値と, 各単独群のT/C値の積を比較する方法を採った. また, 加温単独群と併用群のRW_<20>値の比により, エタノールによる加温温度別増感率を算定した. 実験結果 1.エタノールは単独局注でも抗腫瘍効果を示し, その効果は壊死性であった. 2.エタノール局注併用局所温熱療法は相乗効果を示し, その効果は壊死性であった. 3.エタノール0.3ml/g局注で, 温熱療法による抗腫瘍効果は, 41℃加温に比べ43℃加温で約5.8倍に増強した. 以上の結果から, エタノール局注併用局所温熱療法は抗腫瘍効果が高い治療法と考えられた.

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© 1995 大阪歯科学会
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