歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
窩洞形成シミュレーション装置の開発に関する研究特にハンドピースのコントロールと切削荷重について
川人 照美
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1995 年 58 巻 1 号 p. g53-g54

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抄録

学生の窩洞形成実習の教育方法を確立するため, これまで基礎的研究を行ってきたが, 新たに技能訓練, 動作の分析および周辺器材の評価も可能としたシミュレータを開発し, これを用いて歯の切削時のリアルタイムの手指の動きおよび歯に加わる力のべクトルを中心とした分析を行い, その結果を基にした学生教育の切削用シミュレーションシステムの確立を試みた. 今回の研究ではそのためのシミュレータの開発と切削に関する基本データを蓄積し分析することを主な目的とし, 窩洞形成時のハンドピースのコントロールと切削荷重についての研究を行った. 本実験のため, 術者が常に一定のHome Operating Postureをとれるようにファントムヘッドと術者の座る椅子を一体化したファントム固定装置を作製し, 測定装置として, 窩洞形成時のバーの位置を測定する三次元位置測定装置, ハンドピースの把持力を測定する把持力測定装置, および被削歯に加わる荷重を三次元的に測定できる切削荷重測定装置を組み込み, 切削用シミュレータを作製した. このシミュレータを用い, 3名の術者が鏡視下で切削実験を行った. 切削用人工歯は, 従来より当教室で使用している平滑な咬合面に十字形を印記した実験用人工歯A2-94 (ニッシン)を用いた. 切削部位は術者間のばらつきが比較的少ないと報告されている上顎右側第一大臼歯とした. 切削方法は切削方向による傾向をみるため人工歯のガイドライン内を遠心より近心, 近心より遠心, 舌側より頬側, 頬側より舌側方向に20秒以内に各5本ずつ行うこととした. 第1指から第3指までの各指の把持圧, 切削荷重の経時的な値および切削に要した時間を求め, 分析を行い, 以下の結論を得た. 1.被削歯に加わる荷重は, Thrust方向への切削時, すなわちインスツルメント挿入時, 歯軸方向には複数のピークおよび微細な変動が認められ, 力のコントロールがなされていることがわかった. また, Radial方向すなわち近遠心, 頬舌方向への切削は, 単なる直線的な運動にもかかわらず, 被削歯に対する荷重はつねに三次元的方向に加わることが確認された. 2.インスツルメント挿入時のThrust方向への動きは第2指によりコントロールされていることが示唆された. 3.第3指をレストにすると頬舌的な動きをするとき, 第3指の把持力が不安定になることが確認された. 4.インスツルメントの頬舌側方向への動きはレストを軸に回転運動がなされている考えられるが, 時には平行移動も行われているよう推測され, その差異の確認はできなかった. 5.窩洞形成時の外形のコントロールは視覚に頼るところが大きかったが, 切削時の抵抗に対してインスツルメントを定位置に保つなどの微妙な力のコントロールは手指感覚である触覚および深部感覚からのフィードバックによる情報に頼っていることが示唆された. 6.今回開発した切削訓練用シミュレータを用いることにより窩洞形成時のハンドピースのコントロールについて多角的に分析できた. この結果より本シミュレータは研究用および教育用のシミュレータとして有効であることが示唆された.

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© 1995 大阪歯科学会
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