歯科医学
Online ISSN : 2189-647X
Print ISSN : 0030-6150
ISSN-L : 0030-6150
博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
光硬化型グラスアイオノマーセメントの象牙質に対する接着強さに及ぼす温度・湿度および歯種の影響
稲田 誠一
著者情報
ジャーナル フリー

1996 年 59 巻 2 号 p. g88-g89

詳細
抄録

新世代の充填用材料である光硬化型グラスアイオノマーセメント(以下L-GI)は, 従来型の特徴を残したまま, 初期硬化を光重合レジン成分が担うことにより, 硬化時間が短縮し, 歯質との接合状態が向上して接着強さが向上するといわれた. しかし, 光重合型コンポジットレジンと同様に重合収縮が問題となるなど. 欠点も見逃せない. 従来型グラスアイオノマーセメント(以下C-GI)は温度・湿度環境により機械的性質や接着強さに影響を受けることは周知であるが, L-GIに関するその影響についての報告は見当たらない. 今回, われわれはL-GIを2種象牙質に接着させる場合, 環境温度・湿度および被着面の浸潤状態を変化させると, 象牙質に対する接着強さにどのような影響があるのかについて検討したので報告する. 実験材料および方法 L-GIとして, Fuji Ionomer Type II LC (GC: 以下LC2と略す.) および Vitremer (3M: 以下VTMと略す.)を, C-GIとして Glas Ionomer-F (SHOFU: 以下GIFと略す.)を実験に供した. 象牙前処理剤として, GIFおよび LC2にはデンティンコンディショナー(GC: 以下DCと略す.)を, VTMにはプライマー(3M: 以下VPと略す.)を使用した. 恒温恒湿室は Platinous Rainbow PR-2E (TABAI: 以下PRと略す.)を用い, 条件は32で92%に設定した. ウシ下顎前歯およびヒト大臼歯を使用直前に解凍し, 歯根部を削除, 歯髄を除去して真鍮リングに常温重合レジンにて植立し, #320のシリコンカーバイド耐水紙にて面だしを行った. 面だし直後に接着試験を行ったものを面だし群, 面だし後48時間乾燥器中に保存したものを乾燥群とした. 接着力法は, 内径4mmのアクリル樹脂性接着子を用いて, 条件1: 室内接着面無処理-室内接着, 条件2: 室内接着面前処理-室温援着, 条件3: PR内接着面無処理-PR内接着, 条件4: PR内接着面前処理-PR内接着の4条件にて接着し, 32で92%に設定した恒温恒湿室PR内で24時間保存後, 引張試験を行い, 破断面をSEMにて観察した. 結果および考察 面だし群と乾燥群とを比較すると, 歯種にかかわらず, GIFと VTMは乾燥群のすべての接着条件で接着強さがほとんど得られなかった. LC2は, ウシ歯の場合, どの接着条件においても乾燥群のほうが高い接着強さを示したが, ヒト歯の場合, 条件2で同等の値を示した以外は面だし群のほうが高い接着強さを示した. すべての材料について, PR内で接着操作を行うと歯種にかかわらず, 室温接着より高い接着強さが得られた. また, 象牙質前処理の効果は, ウシ歯の場合, GIFの室温接着群とLC2の全条件に認められ, VTMは面だし群の条件4においてのみ前処理効果が認められた. ヒト歯の場合, 面だし群では前処理の効果が認められ, とくにLC2で顕著であった. C-GIの乾燥象牙質に対する接着強さが低くなったのは, セメント自身がもっている水分が象牙質に奪われ, 接着界面でのセメント強度が低下したことが考えられ, VTMもこのような性質を有しているものと考えられる. これに反して, LC2は, レジン成分が乾燥象牙質に浸透することで, 面だし群より高い接着強さが得られたものと考える. とくに, LC2の前処理群で接着強さが高かったことも, レジン成分の浸透と関連するものと考える. 破断面の状態は, セメントの凝集破壊もしくは界面破壊との混合破壊がほとんどであった. 結論 L-GIのウシ歯下顎前歯象牙質およびヒト大臼歯象牙質に対する接着強さは, 接着操作を行う際の環境温度・湿度や被着体の湿潤状態および歯種に影響を受けることが判明した. また, セメントによって, 歯種により接着強さの傾向に差が認められた.

著者関連情報
© 1996 大阪歯科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top