歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
コンポジットレジン修復への電解酸性水の応用
井上 昌孝
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1996 年 59 巻 2 号 p. g86-g87

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抄録

コンポジットレジン(以下CR)修復に際して懸念される歯髄刺激性は, スミヤー層や象牙細管などに存在する細菌や辺縁漏洩による刺激であるとの見解が支配的となっている. CR修復の際に使用するコンディショナー自体に殺菌性があれば, 歯質の処理と同時に窩洞の殺菌・静菌が行えることになり, 細菌性刺激の防止に有効であると考えられる. 最近, NaClなど少量の電解質を添加した水を電気分解することによって得られる電解酸性水が, 細菌やウイルスを効果的に不活性化することが判明したことから, 手指などの消毒に応用されるようになった. 著者は, CR接着における研削歯面への電解酸性水の応用を試みた結果, 有効な接着が得られることを見いだした(日本歯科保存学雑誌第37巻第4号). しかし, 電解酸性水のCR修復への応用に関する詳細はほとんど明らかにされていない. 今回, 上記のパイロットスタディを基礎にしてCR修復への電解酸性水の応用について詳細に検討した. 実験材料および方法 1. 実験1 電解酸性水にチオ硫酸ナトリウム(以下TSN)を添加し, pHおよび酸化還元電位(以下ORP)の経時的変化を測定した. 2. 実験2 TSNを添加した電解酸性水を使用して, ORPの変化の接着強度への影響を検討した. ヒト歯エナメル質および象牙質を耐水ペーパー(#600まで)にて面だしし, TSNを添加しORPを変化させた電解酸性水を応用したのち, Scotchbond^<TM> Multi-Purpose接着システム(以下SMP)付属の Primerと Adhesiveを用いてCRを接着し, 剪断接着強度(以下SBS)を測定した. コントロール群では TSNを添加していない電解酸性水を使用した. 3. 実験3 研削エナメル質・象牙質および健全エナメル質に対する電解酸性水の処理効果を走査型電子顕微鏡(以下SEM)によって観察した. #600まで研削したヒト歯エナメル質および象牙質に電解酸性水を5, 15, 30, 60, 90秒間応用した際の表面性状を形態学的に観察した. また, 清掃のみ行ったヒト健全エナメル質に電解酸性水を同様に応用し, 表面性状をSEM観察した. なお, 実験3以下では, コントロール群において, SMP付属の Etchant (10%マレイン酸)を使用した. 4. 実験4 電解酸性水の作用時間がSBSおよび樹脂含浸層の生成に及ぼす影響を検討した. 実験2と同様に研削した試料に, 電解酸性水を5〜90秒間応用し, Primerと Adhesiveを使用してCR接着後, SBSを測定した. また, ヒト上顎小臼歯の象牙質を使用して, 電解酸性水を5〜90秒間応用し, 樹脂含浸層のSEM観察を行った. 5. 実験5 電解酸性水の作用時間と色素漏洩度の関係を検討した. ヒト大臼歯頬側に歯冠部と歯根部の両方にまたがるV字型窩洞を形成し, 電解酸性水で5〜90秒間表面処理を行ったのち, 実験4と同様にCRを填塞した. サーマルサイクリング負荷群と非負荷群に分け, ローダミンBをトレーサーとして色素漏洩度を観察した. 結果と考察および結論 本実験において以下の結果を得た. 1.電解酸性本のORPが低下しても, 接着強度は低下しなかった. 2.電解酸性水処理のほうが Etchant処理群よりも健全エナメル質に対する傷害が少なかった. 3.エナメル質においては, 電解酸性水の作用時間の延長にともなってSBSが増加したが, 象牙質では電解酸性水の作用時間とSBSの関連性は認められなかった. 4.樹脂含浸層の厚さとSBSの間には関連性がなかった. 5.接着性と辺縁封鎖性の両面からみて, CR接着のためのコンディショナーとして電解酸性水を応用する場合, 60秒処理が最も適切であると考えられた. 結論として, 電解酸性水は, 接着性CR修復において, 殺菌性をもつコンディショナーとして臨床応用が十分可能であることが示唆された.

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© 1996 大阪歯科学会
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