歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
各種条件下における片側下顎頭の下方牽引効果に関する研究
西川 敏文
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1997 年 60 巻 3 号 p. g4-g5

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抄録

顎関節症の保存的治療方法に多く用いられるバイトプレートの作用機序には, 機械的作用として下顎頭の顎関節部への圧迫の緩和, つまり下顎頭の下方牽引効果がその一つとして挙げられている。従来よりその効果を実験的に確証するために片側のみのバイトブロック等を装着して咬みしめた時の下顎頭変位が計測され, 有効であるとの報告も一部認められる。しかしそれらは装着側とは反対側の下顎頭が上方変位するという点では一致するものの, 装着側での変位様相についてはその結果は一様でなく, 現状では下顎頭の下方牽引効果は明らかにされていない。著者はこれらの随意的筋収縮状態での咬みしめによる下顎頭変位について統一した条件下での観察を行い, さらに他動的付随意的条件下での下顎頭変位についても検討する必要があると考えた。そこでこれらの下顎頭変位について種々の条件を変化させて測定し, どういう条件下で下顎頭の有効な下方牽引効果が得られるかについて左右下顎頭の変位量を測定定し, 比較検討した。実験方法 : 1. 随意的筋収縮(咬みしめ)による下顎頭変位に関する実験: 両側プレートと片側プレート, 片側局部ピボットについて咬みしめ強さを変化させ, 下顎頭の変位を観察した。2. 他動的不随意的条件下における下顎頭変位に関する実験: 1) 片側局部ピボット装着時の徒手的挙上による下顎頭変位に関する実験-片側局部ピボット装着時に非装着側下顎角部を徒手的に挙上し, 下顎頭の変位を観察した。2) マイオモニター電気刺激(パルシング)による下顎頭変位に関する実験: 片側プレート, 片側ピボットについて両側パルシング, 装着側の片側パルシング, 非装着側の片側パルシングを組み合わせて行い, 下顎頭の変位を観察した。被検者は平均年齢25〜26歳の健常有歯顎者男性6〜7名とした。以上の全ての実験による左右下顎頭点の変位量はコンピューターアキシオグラフ(CADIAX Version 2.05, GAMMA社製)を用いて計測定した。結果および考察 : 1. プレート条件に関わらず咬みしめでは下方牽引効果は得られないばかりでなく, 最大咬みしめ時には非装着側下顎頭は上方変位量0.5〜0.8 mmで, ICP時の位置との比較により上方への圧縮力が発現することが示唆された。2. 片側ピボット装着時に徒手的挙上を行うことによって大きな下方変位量1.4 mmが得られるものの, 対側下顎頭では上方変位量も1.0 mmと大きく, さらに圧縮力が強く発現することが示唆された。3. 片側パルシングではパルシング側下顎頭が上方変位, 非パルシング側が下方変位を示し, 下方牽引効果が認められた。下方変位量は非装着パルシング(1.0〜1.4 mm)の方が装着側パルシング(約0.8 mm)よりやや大きい値を示した。対側下顎頭の上方変位量は非装着側パルシングでは0.3〜0.7 mm, 装着側パルシングでは0.2〜0.3 mmであったが, ともに変位後の下顎頭はICP時の位置よりも下方に位置しており, 上方への圧縮は発現しないことが推測された。以上より片側下顎頭の下方牽引効果を得るためには, 随意的筋収縮ではなく他動的不随意的筋収縮, 特に片側プレートまたはピボット装着時のマイオモニターによる片側パルシングが最も有効であることが示唆された。

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© 1997 大阪歯科学会
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