歯科医学
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大阪歯科学会シンポジウム
口腔乾燥症に対する催唾剤の開発の試み
阿部 公生
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2000 年 63 巻 1 号 p. 55-63

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抄録

21世紀の社会はスピード化, 高度化, 複雑化さらには高齢化が一段と加速するので, それに伴いhyposalivationあるいは口腔乾燥症に苦しむ患者が, 老若男女を問わず, 急増すると予測されている.しかしながら, わが国の歯科界では未だこれに対応する解決策は何ら立案されていない.そこで今回ペプチド性レセプターを介する催唾剤の開発を試みたので紹介した.また, 賦形剤に漢方薬を用いることができるかどうかも検索した.この総説では, ペプチド性催唾剤の開発の試みを述べる前に, 口腔乾燥症に関する重要事項に文献的考察を加えた.すなわち, 唾液腺の種類, 口腔乾燥症の原因と結果, 特に原因となる薬物と放射線障害については少し丁寧に説明を加えた.さらに, 代替用として使用される可能性のある人工唾液についても紹介した.本実験前に、まず生理活性を示すペプチドのうち唾液腺に関係が深く, 唾液を分泌させると思われるものから検索を始めた.その結果, 催唾作用を示すペプチドは, C末のペンタペプチドのアミノ酸配列が特徴的で, タキキニンに分類されいるもののみであることが明らかになったので, 天然に存在するタキキニンを合成(multipin法)あるいは購入し催唾作用を検索した.投与量や分泌唾液量の成績から, physalaemin(physa)が最強のペプチドであると判定できたので, physaの催唾活性部位の同定を試みた.最初にphysaのNとC末から1つずつアミノ酸を除いたペプチドを合成し検索した.その結果, N末とは異なり, C末のアミド基は催唾作用発現に必須であることが明らかになったのでC末のアミド基を保持し, しかも18個のアミノ酸とそれぞれ置換したヘプタペプチドを126(7×18)個合成し検索した.そして, physaのC末のペンタペプチドのアミノ酸配列はほぼ最適であり, 5と6位が催唾活性の調節部位であると判定できた.そこで, さらにphysaのN末の1〜4位の置換体(72個)にも検索を進めた結果, physaの3と4位のアミノ酸は最適であるが, 1と2位のアミノ酸はphysaの催唾活性を抑制していると考えられた.以上述べたように, 催唾活性の調節部位が明らかになったので, これらの成績を基にペプチド性催唾剤の開発を試みた.すなわち, 6位をMに置換後さらに1, 2および4位をいくらかのアミノ酸と置換したウンデカペプチドを合成し検索した結果, ほとんどすべてのウンデカペプチドの催唾活性が有意に亢進した.このことから, さらにこれらの成績を基に検索を続けることにより新しい催唾剤の開発が可能になると考えられた.また, 用いた19種類の漢方薬のうち2つは連続投与すると唾液腺にtropicに作用すると推察できる結果を得た.しかし現時点では, ヒトへの応用にはさらなる検索が必要である.

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© 2000 大阪歯科学会
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