歯科医学
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レーザアブレーション法を用いて製作したハイドロキシアパタイト超薄膜被覆チタンインプラントの骨形成に関する実験的研究
大橋 芳夫
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2005 年 68 巻 1 号 p. 79-91

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抄録

従来のハイドロキシアハタイト(以下, HAp)薄膜被覆インプラントはHApのもつ新生骨伝導能による治療期間の短縮などを期待して使用されたが, 膜の厚さが大きく, その強度が低いことから, 膜にひびや剥離が生じ, 期待通りの臨床成績をあげることは出来なかった.この問題を解決するためレーザアブレーション(以下, PLD)法を用いて1μm以下のHAp薄膜を作製し, 臨床応用に必要な機械的特性や結晶性, 組成均一性など調査を行い良好な結果を得てきた.このPLD法では, 非常に波長の小さいエキシマレーザを使用することによってターゲットのHApと組成のずれない超薄膜を作製できる.今回, 異なる厚さのHAp薄膜被覆インフラントについて表面形状変化を, さらにこれらのインプラント体の埋植動物実験から新生骨形成像を比較観察した.実験材料にはシリンダー型およびネジ型のインプラント体(CPチタン製)を使用し, 各々にPLD法により厚さ50nm(以下, 膜厚50nm)と300nm(以下, 膜厚300nm)のHAp薄膜を被覆させたインプラント体と対照として薄膜なしのインプラント体(以下, 対照)の3種類を用意した.実験動物はビーグル犬を使用した.実験部位は, 事前に抜歯を行い, 充分な治癒期間を設けた下顎小臼歯部歯槽骨とした.実験は, シリンダー型インプラントに異なる厚さのHAp薄膜を被覆させた表面の変化を走査電子顕微鏡(以下, SEM)にて観察し, また表面形状の変化を三次元非接触表面計測装置(以下, マッフ)を用いて計測した.次に実験動物3頭の実験部位に上記3種類のシリンダー型インプラント体各1本を無痛下で埋入した.また, 6頭について, 同様の方法にてネジ型インプラント体を埋入した.この際, 実験期間4週では右側, 8週では左側を用いた.実験期間終了後, シリンダー型インプラントを用いた3頭およびネジ型インプラントを用いた3頭は薬物過剰投与によって安楽死させた後, 総頸動脈よりアクリル樹脂注入を行い, 必要部位を摘出し, X線撮影した.このX線写真を基にしてインプラント体の近遠心中央部を歯槽骨ごと切断し, 血管・骨同時鋳型標本を作製した.そして, インプラント体を除去し, SEMにて観察した.また, 特にネジ型インプラントのインプラント空隙部に形成された新生骨量をSEM像から計測した.ネジ型を埋入した残りの3頭については, 組織標本を作製し, 光学顕微鏡にて観察した.インプラント体表面のマッフ観察から, 表面積および表面粗さが対照, 膜厚50nmおよび膜厚300nmの順に減少していた.動物実験後の歯槽骨のSEM観察ではシリンダー型, ネジ型共に膜厚50nmおよび膜厚300nmではともに対照と比較して多くの新生骨を形成している像が確認できたが, 両者の新生骨形成像に差異は認められず, 面積計測からも差は得られなかった.光学顕微鏡観察では, 対照はネジ山までの新生骨形成が認められなかったが, 膜厚50nmそして膜厚300nmではともにネジ山までの新生骨形成が観察された.以上の結果より, PLD法によって作製されたHAp超薄膜は対照のチタンよりも骨形成を促進することが認められ, 膜厚50nmという非常に薄いHAp膜でも膜厚300nmと同様の新生骨効果があることが確認でき, 薄膜は薄いほど機械的特性が向上することからも, 膜厚50nmのHAp薄膜被覆インプラントの臨床応用の有用性が示唆された.

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© 2005 大阪歯科学会
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