歯科医学
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バイオフィルム様構造をもつ通性嫌気性グラム陽性桿菌の同定と性状
石原 研山根 一芳福島 久典
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2006 年 69 巻 3_4 号 p. 129-138

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抄録

バイオフィルム形成は,細菌が生存に不利な環境中で定着し,生き残るためのstrategyである.近年の様々な研究により,ヒト難治性細菌感染症の80%以上にバイオフィルム形成細菌が関与し,病巣部に形成されたバイオフィルムは,抗生物質などの各種抗菌治療薬に対する抵抗性を付与して疾患を難治化させていることが明らかになっている.口腔領域においても細菌感染症の難治化がしばしば問題となっており,原因の1つとしてバイオフィルムの関与が示唆されている.我々はこれまでに,口腔内にシュクロース非依存性にexopolysaccharide (EPS)を産生してバイオフィルムを形成する細菌が存在し,辺縁性歯周炎や根尖性歯周炎の難治化に関与していることを報告してきた.今回,口腔膿瘍病巣より分離した教室保存菌株の中に,コロニーに粘稠性をもち,培養菌液の粘度が高い通性嫌気性グラム陽性桿菌(strain K20)を得たのでこれを同定し,そのバイオフィルム形成性と病原性について検索した.Strain K20の16S rRNA遺伝子をpolymerase chain reaction法により増幅し,その配列を検索したところ,Actinomyces viscosus (A. viscosus)の16S rRNA遺伝子と99%の相同性があった.また,strain K20の菌体表層を走査型電子顕微鏡で観察すると,菌体の周囲にバイオフィルム形成菌に特徴的な網目様構造が存在した.そこで,strain K20のバイオフィルム様構造についてさらに詳しく検討するため,polystyreneの遠心管に対する付着性と,EPS結合性をもつCalcofluor Whiteを用いてEPS産生性を検索した.その結果,菌体表層に綱目様構造物をもつstrain K20は,abiotic material表面にスライム状の構造物をつくって付着し,A. viscosusの標準株で網目様構造物をもたないATCC 15987に比べ,多量のEPSを産生していることが分かった.さらにこの2つの菌株をマウスのソケイ部に接種し,膿瘍形成能を比較したところ,strain K20はATCC 15987に比べて持続性の膿瘍を形成した.これらのことから,口腔膿瘍から分離されたA. viscosusにはEPSを産生し,バイオフィルムを形成する株があり,このEPS産生性は,膿瘍形成に深く関わっていることが示唆された.

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© 2006 大阪歯科学会
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