2-(2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール誘導体は,ヒドロキシ基とベンゾトリアゾール基内の窒素原子が分子内水素結合を形成して励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)に起因した無輻射失活により蛍光を示さないことが知られており,紫外線吸収剤として広く用いられている。われわれは,誘導体の5位に,アミノ基,モノブチルアミノ基,ジメチルアミノ基が導入された化合物を合成し,これらの誘導体はESIPTが可能な分子構造でありながら,蛍光を示すことを見いだした。分子内水素結合を阻害する溶媒中において,これらの誘導体は電子吸収スペクトルに大きな変化がないことから,分子内水素結合が比較的弱く,ESIPTの効率が低いことが示唆された。また,5位に導入された置換基の電子供与性が高いほど蛍光が増強したことから,これらの置換基の電子供与性により励起状態におけるベンゾトリアゾール基のプロトン受容性が低下してESIPTが抑制され,蛍光が発現することが示唆された。