2022 年 95 巻 12 号 p. 370-374
古代において,ガラス製品は実用品であったと同時に,その美しさと稀少性から交易品としても珍重された。古代のガラス職人たちは身の回りにあるさまざまな材料を駆使し,色とりどりのガラス製品を生み出していた。古代のガラス製品の化学組成は原料の種類や採取地の違いを強く反映することから,起源推定のための重要な指標となる。筆者らは文化財のその場(オンサイト)分析に応用可能な可搬型の蛍光X線分析装置を開発し,国内外の考古遺跡や博物館において古代のガラス製品の非破壊化学組成分析へと応用してきた。本稿では,古代ガラスの理化学的分析に関する概説と,筆者らがわが国の貴重な国宝に対して実施した最新の研究事例を紹介する。