2023 年 96 巻 1 号 p. 2-8
包装容器印刷部材としてセルロース素材の見直しが進んでいる。紙に代表されるセルロース系素材においては画像濃度と耐擦性の両立が課題である。本検討では分子間力のうち,水の影響を受けにくいCH/π水素結合力に着目し,セルロース骨格に対しCH/π水素結合力を発揮する直接染料構造に着目した。耐擦性は直接染料をあらかじめ印刷用紙に付与することで改善し,高分子分散剤に直接染料構造を組み込むことでさらに改善した。また耐擦性に優れる直接染料構造として,芳香族の求電子置換反応を参考に①長い共役二重結合骨格を持ち,②電子供与性の置換基を多く備え,③分子内の置換機定数の総和が低く,④構造が左右非対称であり,左右での置換基定数の差が大きいことの4点を見いだした。この4条件を満たすDirect Black 22を高分子分散剤に導入した顔料分散体は,高い印刷濃度と優れた耐擦性を両立した。