本稿は、㈱日本格付研究所のアナリストが電力業界の視座を示すとともに、コロナ禍前後で実際に行った格付アクションの経緯を記したものである。格付アナリストの関心事は、将来キャッシュフローの「安定性とその見わたしやすさ」がどの程度あり、どう変わっていくのかにある。規制業種である電力業界は、エネルギー政策や制度の枠組みの安定度とその変化といった定性的要素を強く反映する必要がある。個々の電力事業者の行動は、他の業界に比べて規制や制度運営ルールの制約を受ける。そのため格付は自ずと定量的評価よりも定性的評価の重要性が高くなる。しかし東日本大震災以降、いくつかの大きなリスクイベントを経る中で、電力業界の格付の構成要素としての電気事業制度は、かつてほど大きな位置を占めなくなっている。今後は、個別事業者の財務基盤の充実度が問われ始めてくる。