抄録
症例は72歳, 男性. 1999年糖尿病性腎症のため維持透析導入. 2005年ころより労作時胸痛を自覚, 虚血性心疾患を疑われたが本人が精査を拒否. 2006年10月末から3回の意識消失発作が出現, 11月初旬透析中に完全房室ブロックを認めたため, 当院へ緊急入院となる. 入院時心電図は洞調律, 3束ブロック, QRS幅172msecであった. 冠動脈造影では左冠動脈主幹部を含む3枝病変を認め, 左室造影はび漫性壁運動低下を呈した. 冠動脈バイパス術を施行予定となる. 入院後は完全房室ブロックや高度房室ブロックは認められていなかったが, 手術当日朝に完全房室ブロックを呈したため, 冠動脈バイパス術とペースメーカ移植術を一期的に行うこととした. 従来型DDD型ペースメーカに心筋電極を用いた心臓再同期療法を行った. 手術後に心拍出量·駆出率の改善, 自覚症状の改善(NYHAIIIからIIへ)を得ることができた. 心筋電極を用いた心臓再同期療法は経冠静脈洞電極を使用した心臓再同期療法を行うことができない施設でも施行可能であり, CRT-Dが保険償還されるようになった現在でも, 症例を選択すれば治療の選択肢となり得ると考えられた.