症例は60歳台男性.胸痛を主訴に当院へ救急搬送,ST上昇型心筋梗塞の診断で右冠動脈に対し経皮的冠動脈インターベンションを施行した.入院後の経胸壁心臓超音波検査で重症大動脈弁狭窄症に加え大動脈弁に腫瘤を認めた.また,経食道心臓超音波検査でも同様に無冠尖から右冠尖に連続する腫瘤性の石灰化を認めた.冠動脈残存病変,重症大動脈弁狭窄症,大動脈弁の石灰化腫瘤に対して冠動脈バイパス術,大動脈弁置換術および腫瘤摘出術を施行した.摘出した腫瘤は組織学的にCalcified Amorphous Tumor(CAT)と診断された.CATは非腫瘍性の心臓腫瘤であり末期腎不全患者の僧帽弁に形成されることが多い.今回,我々は腎機能正常患者の大動脈弁に形成された非常に稀なCATの1例を経験したため文献的考察を加えて報告する.
先天性QT延長症候群(LQTS)の診断はQT延長をきたす二次性因子が存在しない状況で先天性LQTSリスクスコアにより≧3.5となった場合,先天性LQTS関連遺伝子の明らかな病的変異を認めた場合,または繰り返し記録された12誘導心電図でQTc ≧500 msecのいずれかを認める場合に診断される.またLQTSの病型診断としてエピネフリン負荷試験や遺伝子検査が有用とされる.
症例は40歳代,女性.乳がん術後でホルモン療法中(リュープロレリン)であった.自宅内で意識レベルの低下した父を発見し,救急要請を行った.救急隊を父の部屋まで誘導したが,その直後に後方で卒倒した.救急隊は卒倒した本患者の心肺停止を確認し蘇生処置を行った.AEDによってショックが実施され,そのまま父ではなく本患者が搬送となった.AEDの解析結果は心室細動であった.来院時のカリウム値は2.9 mEq/Lと低値で,繰り返し施行された12誘導心電図でQTcは最大523 msecと延長していた.カリウム値の補正後もQTcは500 msecを超えており,LQTSと考えられた.LQTSの病型診断のためエピネフリン負荷試験を行うと,5分後にQTcが+94 msecと著明に延長しLQT1特有の反応と考えられた.心停止の二次予防目的にICD植込み術が施行され,自宅へ退院となった.遺伝子解析の結果LQT1~3は否定された.QT延長には電解質,性ホルモン,薬剤,情動ストレスなどが複雑に絡み合っており,本症例では女性,低カリウム血症,リュープロレリンによるベースのQTcの延長と,父の急変に立ち会ったことによる異常な交感神経刺激がエピネフリンを介した直接的,間接的な作用からさらなるQTcの延長を生じ,心室細動に至った可能性が考えられた.
症例は70歳台女性.肺腺癌(Stage Ⅳ)に対し化学療法中に多発脳梗塞を発症し,エドキサバン30 mgを内服していた.X年12月に自宅で倒れているところを発見され当院へ救急搬送となった.収縮期血圧70 mmHg台と低値であり,血液検査で心筋逸脱酵素の上昇,心電図でⅠ・aVL・V2-6誘導の広範囲でST上昇,心エコー図検査で前壁から側壁領域の無収縮を認めた.急性広範前壁心筋梗塞の診断で緊急で冠動脈造影を施行したところ,左冠動脈主幹部に血栓閉塞を認めた.右大腿動脈よりImpella CPを留置,気管挿管・人工呼吸管理の上,経皮的冠動脈形成術を施行した.血管内超音波(IVUS)では多量の血栓像を認め,バルーン拡張にて再灌流を得たのちに再度IVUSで評価したところ大幅な血栓の消退を確認,また明らかなプラーク破裂等は認めなかった.肺腺癌を背景に繰り返す動脈血栓塞栓症を認めたことから,Trousseau症候群と診断した.Trousseau症候群は悪性腫瘍による播種性血管内凝固症候群を基盤とした静脈血栓症の他,全身性動脈塞栓症をきたすことが知られている.動脈塞栓症の原因としては非細菌性血栓性心内膜炎による全身性動脈塞栓症や末梢動脈での凝固能亢進による血栓形成などが挙げられる.Trousseau症候群による静脈血栓症の再発予防には直接作用型抗凝固薬(DOAC)の有効性が報告されているが,動脈血栓塞栓症に対するDOACの有効性は明らかではない.DOAC内服中に動脈塞栓症を発症し,Trousseau症候群と診断した症例を経験したので報告する.
症例は50歳代男性,30年以上前に三尖弁閉鎖不全症に対し三尖弁生体弁置換術を受けていた.発作性上室性頻拍を疑われ精査加療目的に当院へ紹介された.来院時は下腿浮腫を認め,心電図では2:1の心房頻拍,心エコーでは重症三尖弁狭窄症を認めた.心房頻拍の治療のため両心房を3Dマッピングしたところカテーテル操作で頻拍が停止し洞停止となった.右心カテーテル検査にて右房右室の拡張期平均圧較差(TV-mPG)は9 mmHgと開大を認めた.経皮的三尖弁バルーン弁形成術(PTTBV)を施行したところTV-mPGは6 mmHgに減少し右心不全症状の改善を得た.その後,洞不全症候群に対してペースメーカを留置し,待機的に三尖弁人工弁置換術を施行した.三尖弁生体弁置換術後の三尖弁狭窄症に対してPTTBVを施行した症例は稀であるため報告する.
症例は59歳男性.発熱,全身倦怠感を主訴に紹介入院した.肺炎精査目的に施行したCT検査にて右房内腫瘤を指摘され循環器内科に紹介された.心電図ではP波消失,徐脈,下壁誘導で軽度ST上昇を認め,過去の心電図を確認すると5カ月前からST上昇を呈していた.心エコー図検査では右房上壁に付着する約20 mmの可動性腫瘤を認めたほか,上大静脈右房開口部に壁肥厚を認め,血流障害を伴っていた.確定診断目的に心腔内エコーガイド下生検を施行したが診断には至らず,18F-FDG-PET/CT検査で上大静脈,心膜に集積を認めた.右房内の可動性腫瘤については血栓の可能性を考え抗凝固療法を開始したところ,3カ月後に消失した.外来で化学療法を施行するも上大静脈,心膜肥厚の縮小効果は得られず,経過中発作性上室性頻拍をきたし再入院した.上大静脈症候群による浮腫を認めるようになり全身状態は悪化,心臓腫瘤を指摘されてから4カ月後に永眠された.1年前食道癌に対する手術歴あり,経過からは食道癌再発心転移の可能性も考えられたが食道癌からの心転移は比較的稀とされている.本症例における徐脈頻脈症候群の出現は洞結節への腫瘍浸潤によると考えられた.その他,経過中非特異的なST上昇所見も認められており,悪性腫瘍の経過中における心電図検査の重要性が示唆された.
症例:70歳台女性.30歳時に完全房室ブロックのためペースメーカー移植術を受けた.リード断線のため右側から2本の非機能リード,左側からVDDリード(いずれもリード植え込み年数は20年以上)が移植されていたが,3回目の電池交換術後にポケット感染をきたした.システム全抜去の方針としたが,植え込み年数が長期で造影CTによる高度の癒着を認めたため,外科手術とのハイブリッド手術を念頭においた上で経静脈的リード抜去を行った.パワードシースを使用し,左側は無名静脈-上大静脈合流部まで,右側は上大静脈まで剝離したが,さらに中枢の剝離は困難であった.このため,待機的に胸骨正中切開・人工心肺下にリード全抜去を完遂した.
結論:植え込み10年以上を経過した複数リード症例では,経静脈的全抜去に難渋することがあり,ハイブリッド手術を念頭においた治療戦略が必要である.
症例は41歳,男性.2歳時にファロー四徴症(TOF)と診断され,ウマ心膜パッチによる心室中隔欠損孔(VSD)閉鎖術および右室流出路再建術(RVOTR)が施行された.4歳時にVSD遺残シャントに対し再VSDパッチ閉鎖術を施行.28歳時に発作性上室性頻拍(PSVT)に対しカテーテルアブレーションが施行された.経過観察中,肺動脈弁閉鎖不全症(PR)の進行と右心機能低下を認め,肺動脈弁置換術(PVR)の適応と診断された.TOF術後のPVRは再正中切開が標準術式であるが,3回目の胸骨正中切開による標準術式,左小開胸による心拍動下MICS手術,経カテーテル肺動脈弁留置術(TPVI)の3つの選択肢が検討された.当院はTPVI実施施設ではなく,患者は当院での治療を強く希望した.過去2回の胸骨正中切開歴があり,将来的な再手術を考慮する必要があること,2型糖尿病とCushing病を合併し,胸骨感染リスクがあることから,左小開胸MICSアプローチを選択した.人工心肺を使用し,心拍動下にPVRおよびRVOTRを施行.同時に左心系への空気侵入を防ぎつつ,術中判明した遺残VSDリークをパッチ閉鎖した.左小開胸によるTOF術後の心拍動下MICS PVRは,低侵襲かつ安全に施行可能であり,再胸骨正中切開の代替となり得る有用な選択肢の一つと考えられた.