背景・目的:本研究の目的は,脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide;BNP)や心房性ナトリウム利尿ペプチド(human atrial natriuretic peptide;hANP)などの血液学的指標と心エコー指標との間で,その後のドライウエイト(Dry Weight;DW)減量の予測因子としての有用性に関して比較検討することである.
方法:2018年6月から2019年5月の1年間に当院腎臓内科で維持透析を行っている患者のうち,循環器科へ心エコー評価依頼のあった55例に関して,その後のDWの低下の有無により「DW低下あり」群と「DW低下なし」群の2群間に分類し,両群間で血液学的評価(BNPおよびhANP)と心エコーの各指標に関して後ろ向きに比較検討した.
結果:血液学的指標に関して,「DW低下あり」群と「DW低下なし」群の2群間でBNP(pg/mL)とhANP(pg/mL)は有意差を認めなかった(414.6[101.4-685.7] vs 185.5[32.5-213.3],p=0.12;162.1[82.25-222.5] vs 113.5[36.1-110.5],p=0.32).一方で,心エコー指標(E:early diastolic filling velocity,A:atrial filling velocity,E':peak early diastolic velocity of the mitral annulus,RVSP:right ventricle systolic pressure)において,「DW低下あり」群は「DW低下なし」群に比較して,有意にE/A,E/E' septal,E/E' lateral,RVSP(mmHg)が高値であった(0.85±0.06 vs 0.67±0.03,p=0.01;24.6±2.1 vs 14.1±1.0,p<0.0001;15.2±1.4 vs 9.9±0.6,p=0.001;39.0±2.5 vs 26.6±1.1,p<0.0001).
心エコー評価後のDW低下の有無に関するロジスティック解析(単変量)では,E/A(OR 81.2,95%CI[2.227-5312],p=0.0157),E/E' septal(OR 1.23,95%CI[1.087-1.477],p=0.0002),E/E' lateral(OR 1.26,95%CI[1.083-1.529],p=0.0025),RVSP(OR 1.25,95%CI[1.107-1.470],p<0.0001)が有意であった.多変量解析ではRVSPのみが有意であった(OR 1.17,95%CI[1.009-1.445],p=0.0366).
考察:維持透析患者において心エコー指標はその後のDW低下の予測因子となり得ることが示唆された.
当院は循環器内科医師5名中,心血管インターベンション治療専門医1名と認定医3名を擁しているが,夜間休日は原則として専門医1名を含む2名が緊急カテーテル治療のために常時待機している.専門医不在時は認定医1名を含む2名で待機としていたが,2年前からオンライン会議システムを用いた画像共有による遠隔支援を開始し,これまで3例の緊急カテーテル治療に対して遠隔支援を行った.造影画像や血管内エコー画像を共有して治療方針,使用デバイスについてディスカッションを行い,短時間で成功裡に手技終了することができた.高額な専用システムを用いずに遠隔支援体制を構築したが,通信品質や重症例,複雑症例での術者交代ができないことなど課題も残されており,今後も改良を続けたい.
症例は75歳男性.70歳で多発性骨髄腫の診断となり当院血液内科で加療中であった.75歳時に夜間や運動中に30分程度続く胸部不快感を訴えるようになり当科紹介となった.負荷心筋シンチグラフィにて負荷時像で下壁の集積低下と安静時像でのFill inを認めたため,冠動脈造影を施行したが表在冠動脈に有意狭窄を認めなかった.心筋生検で心筋内小血管にアミロイド沈着を認め,閉塞性壁内冠動脈アミロイドーシスと診断した.過去に剖検にて診断した1例を報告したが,生前に診断し得た症例は少ない.INOCA(Ischemia with Non-Obstructive Coronary Artery disease)の一病態として微小血管を障害する本疾患も念頭におく必要があると考え報告する.
症例は20歳代女性,無脾症で右室性単心室,肺動脈狭窄,総肺静脈還流異常症,左上大静脈,左下大静脈の基礎心疾患を有していた.11カ月時に総肺静脈還流異常修復術と両方向性Glenn手術を経て,1歳10カ月時にtotal cavopulmonary connection(TCPC)法を用いたFontan手術を行った.術後は心不全と血栓予防の管理を行っていたが,16歳で左肺動静脈瘻を指摘された.
その後,徐々に低酸素血症が進行し,21歳時には経皮的酸素飽和度(SpO2)が83%まで低下し,易疲労感を認め就業に支障が出るため,在宅時に限定した酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)が導入された.23歳時,低酸素症状改善目的に責任末梢肺動静脈瘻にコイル塞栓を行った.肺動脈圧上昇なくSpO2は93%まで上昇し低酸素症状の改善を認めた.肺動静脈瘻の原因は肝静脈血の左肺流入障害による肺血流不均衡が考えられた.
症例は71歳,女性.1時間前からの胸痛を主訴に救急搬送された.冠危険因子は脂質異常症,糖尿病,心疾患の家族歴.2度の自殺未遂で精神科通院中であった.心電図検査のⅠ,Ⅱ,Ⅲ,aVF,V1-6誘導で広範なST上昇がみられ,心臓超音波検査では心室中隔基部の壁運動は比較的保たれていたが,前壁中隔~心尖部の収縮低下があった.血液検査では白血球の有意な上昇はなく,心筋逸脱酵素の上昇も認めなかった.緊急冠動脈造影検査で左前下行枝seg6遠位側に99%狭窄(TIMI grade 2)があり,心尖部を回り込んで下壁を灌流していた.同部位に薬剤溶出性ステントを留置した.一見,冠動脈支配領域と一致しないように見受けられるST上昇型心筋梗塞であっても,冠動脈の走行には解剖学的多様性もあることを念頭に置き,初期治療に当たることが重要である.