症例は, 42歳, 男性. 先行する感冒症状から約2週間後に動悸を主訴に近医を受診した. 来院時はHR 180の心室頻拍(ventricular tachycardia;VT)であり直流通電にてVTは停止した. A型インフルエンザ抗体価が高値, 左室収縮能の低下, クレアチンキナーゼ(creatine kinase;CK)高値から新型インフルエンザによる急性心筋炎が想定された. その後, VTが頻発したためステロイドによる治療が開始された. 当院に転院後は, VTは消失しCKも低下傾向を認め, 心筋炎は沈静化したかに思われた. しかしステロイド減量中にCKの再上昇を認めた. 心筋炎の再燃が疑われたがCK分画ではCKMMがその95%を占めており, 近位筋優位の筋力低下を伴うことから筋疾患の合併が疑われ, 神経内科にて精査を施行されたところ, 多発筋炎と診断された. ステロイドによる治療が継続されたがCKは上昇を続け, 多発筋炎の活動性は上昇を続けた. また, トロポニンTは陰性化せず, 慢性心筋炎への移行が示唆された. 多発筋炎の治療のため, 神経内科に入院となり, ステロイド療法に免疫抑制薬(シクロスポリン)が併用された. その後はCKの低下とともにトロポニンTも低下し, 陰性化にいたった. インフルエンザウイルスに対する免疫応答が心筋炎を発症させた一方で, 多発筋炎を引き起こす免疫学的異常を惹起したと考えられた. 心筋炎に対する免疫抑制療法は一定の見解がないのが実情であるが, 多発筋炎に対して投与された免疫抑制薬が心筋炎にも著効した1例であった.