大動脈弁狭窄症および狭心症の診断を受けた77歳男性が大動脈弁置換術 (生体弁) および冠動脈バイパス術を他施設で施行された. 術後経過は良好であり術後24日に独歩退院となったが, 退院6日目に意識障害をきたし緊急入院となった. メチシリン耐性黄色ブドウ球菌による敗血症性ショック, 多臓器不全および汎発性血管内血液凝固症を合併しており集学的治療が開始されたが, 第3病日に脳梗塞による左片麻痺を合併し第7病日に死亡した. 臨床診断は人工弁置換術後感染性心内膜炎に合併した弁狭窄であり, 病理解剖の結果から術後短期間で疣贅とフィブリンが弁に沈着したために弁周囲組織の破壊を伴わずに弁の可動性低下および狭窄が進行したと推察された. 早期型の人工弁置換術後感染性心内膜炎は弁周囲組織の破壊を伴いやすい病態であるが, 疣贅の増大による弁表面の肥厚のみが進行する病態も念頭に入れて鑑別していく必要がある. また人工弁の疣贅については経胸壁心臓超音波検査を用いた評価には限界があり, 本症例は経食道心臓超音波検査を用いて感染性心内膜炎を評価することの重要性を示す教訓的な症例と考えられた.