抄録
57歳女性. 突然の右胸背部痛で救急受診された. 腹部造影CTにて右副腎腫瘍を認めたが心電図で広範囲にST低下を認め, 心筋逸脱酵素も陽性であり急性冠症候群を疑い緊急入院となった. 入院後の心臓超音波検査では左室心基部が全周性に無収縮であったが心尖部は保たれていた. 緊急冠動脈造影では有意狭窄はなく, 左室造影からinverted takotsubo cardiomyopathyと診断した. ヘパリン投与開始後右胸背部痛の増悪を認め, 腹部CTを再撮像したところ右副腎腫瘍からの出血と後腹膜出血を認めた. ヘパリンを中止, 保存的加療を行い血腫は徐々に消失した. 血中カテコラミン, 尿中VMAは正常範囲内, コルチゾールは36.8 μg/dLと上昇しており褐色細胞腫や急性副腎不全は否定的であったため, 最終的に副腎出血と診断した. 保存的加療により背部痛は軽快し第5病日には心臓超音波検査上も壁運動の正常化を認め, 18カ月後のCTで右副腎血腫はほぼ消退していた. 今回われわれは, 特発性右副腎出血にinverted takotsubo cardiomyopathyを合併した稀な症例を経験したため, 文献的考察を交えて報告する.