心臓
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[症例]
脳梗塞を伴った,上行大動脈の感染性動脈瘤の1例
田中 常雄浅野 満野村 拓生河野 敦則
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2018 年 50 巻 6 号 p. 625-630

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抄録

 症例は76歳,男性.転倒した際,腰部を打撲し当院緊急入院となった.腰痛は軽快したが入院2週間ほど前より発熱がみられたため精査を行う方針となった.入院1日目,意識障害がみられ多発性脳梗塞と診断された.CT検査を行ったところ上行大動脈周囲に不整な壁肥厚がみられた.血液培養にてKlebsiella pneumoniaeが検出され,ガリウムシンチグラフィでは上縦隔の異常集積がみられ上行大動脈感染の可能性が考えられた.脳梗塞急性期のため抗生剤投与による保存的療法を施行しつつ,CT検査により上行大動脈の形態変化を観察した.感染コントロールは不良であり,入院14日目のCTにて,上行大動脈に仮性瘤が出現したため上行大動脈破裂と診断し,入院15日目に準緊急手術を行った.胸骨正中切開,左大腿動脈送血,右房脱血で体外循環を確立し,低体温循環停止下で,上行大動脈周囲を剥離した.上行大動脈前面から腕頭動脈にかけて周囲組織と強固に癒着し,周囲脂肪織から膿の排出を認めた.上行大動脈前面に穿孔部が認められた.上行大動脈から腕頭動脈周囲の感染部位を可及的に郭清した.リファンピシン浸漬J-Graft 28 mmを用い上行部分弓部大動脈人工血管置換術,右腕頭動脈再建,その後,有茎大網充填を施行した.術後約1年が経過するが,感染再燃はなく良好に経過している.比較的稀な上行大動脈の感染性動脈瘤を経験した.感染性動脈瘤は急激に変化する可能性が高いため感染が疑われたら,頻回なCT検査による大動脈形態の厳重な観察が必要と考えられた.

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