心臓
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[症例]
妊娠後期の急性心不全を契機に褐色細胞腫の診断に至った1例
小林 亜樹甲斐 貴彦徳増 芳則中村 淳阿部 信内藤 昭貴渡邊 明規
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2020 年 52 巻 10 号 p. 1176-1182

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抄録

 症例は32歳女性.初回妊娠のため近医産婦人科に通院中で,経過中に妊娠高血圧,尿糖陽性を指摘された.妊娠31週5日午後から動悸を自覚し,その後頭痛,嘔気も伴ったため同日夜間救急受診.12誘導心電図は,洞性頻脈およびⅡ Ⅲ aVFおよびV3-V6のST低下を呈した.経胸壁心エコーでは左心室のびまん性壁運動低下を認めたため,原因不明の周産期心機能低下の精査加療目的のため緊急入院となった.第2病日,心機能低下が遷延し,心筋逸脱酵素およびBNP値の経時的な上昇を認めた.妊娠継続した場合の母体の心機能悪化の進行・分娩時リスクが懸念され,同日緊急帝王切開術を施行された.術後,一時的にカテコラミンや利尿薬を要したが,心機能は徐々に改善した.しかしながら,発作性高血圧と頭痛を繰り返し,血中・尿中カテコラミンはともに高値で,腹部エコー,CT,MRIで左副腎腫瘤を認め,I123-MIBGシンチグラフィで左副腎集積が確認され,左副腎褐色細胞腫と診断された.α遮断薬内服を開始され,第38病日に転院,第49病日に腹腔鏡下左副腎摘出術を施行された.以降,経過良好で血中カテコラミンは正常範囲内で推移し,自宅退院した.

 急性心不全を伴う褐色細胞腫が妊娠中に指摘されることは稀であり,分娩や腫瘍摘出のタイミングに苦慮することが多く,文献的考察を含めて報告する.

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