症例は53歳男性.身長176 cm,体重67 kg,BMI 21.63で,脂質異常症を過去に指摘されたことがある.心疾患や突然死の家族歴はない.喫煙歴はなく,飲酒は月に数回程度.30年以上前からランニングを行っており,月に150 km走ることを習慣にしているが,過去に胸部症状の自覚はなかった.今回,十分な睡眠がとれていない状態でハーフマラソンに参加し,21.1 km完走.ゴール直後に前駆症状なく卒倒した.スポーツドクターによる迅速な心肺蘇生の後,自動体外式除細動器により除細動を施行され自己心拍再開となり,精査加療目的に当院循環器内科に入院となった.入院後のアセチルコリン負荷試験で右冠動脈にアセチルコリン20 μgを注入したところ,心窩部痛が出現した.12誘導心電図ではⅡ,Ⅲ,aVFでSTの上昇がみられ,右冠動脈は枯れ枝状のびまん性狭窄をきたしたため,冠攣縮性狭心症の診断となった.本症例は,無症状で経過し運動後の院外心停止を初発症状とする冠攣縮性狭心症の1例であり,未然に防ぐことが困難であったと考えられた.無症候性心筋虚血をきたし致死性不整脈を発症する例もあることから,マラソン大会における迅速な救護体制の整備だけでなく,冠攣縮の予防のためにも参加者に対する事前のリスク評価を行うことが重要である.