心臓
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[症例]
急性前骨髄球性白血病に対する寛解導入療法時のイダルビシン初回投与により,急速な左室収縮障害を認めた1例
福尾 篤子賀来 文治稲端 翔太東 雅也勝田 省嗣川尻 杏奈中川 俊一郎黒川 敏郎
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2023 年 55 巻 6 号 p. 591-598

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抄録

 症例は37歳,男性.急性前骨髄球性白血病に対する寛解導入療法のためにトレチノイン,シタラビン700 mg/m2(累計),イダルビシン36 mg/m2(累計)の初回投与を受けた.治療開始後19日目に前胸部痛を訴えるとともに心電図にて広範囲な誘導でST上昇を認め,トレチノインもしくはシタラビンに関連した急性心膜炎と診断したが,心臓超音波検査にて少量の心嚢水以外に左室収縮障害を認めた(化学療法開始前:左室駆出率64%→治療開始後20日:左室駆出率48%).さらに心筋トロポニンT(0.031 ng/mL)とBNP(636 pg/mL)の上昇を認めた.心筋炎の合併も疑い心臓MRI検査を実施したが,T2強調画像での信号亢進や,遅延造影は認められず,心筋炎の可能性は低いと考えられた.このため,心機能の低下の原因としてイダルビシン初回投与後に生じた心筋障害の可能性が考えられた.心機能低下に対してはβ遮断薬,ACE阻害薬の導入を行い,心膜炎に対してはコルヒチンとステロイドの投与を行った.心不全治療開始後,自覚症状は改善してBNPも正常化したが,左室収縮能は心不全治療開始2.5カ月経過後も左室駆出率が49%にとどまった.一般的にアントラサイクリン系抗癌剤による心筋障害は,繰り返す化学療法により薬剤が蓄積し,その後に生じることが多い.しかし,本症例ではイダルビシン初回投与後の超急性期に左室収縮障害が生じた.このことは,日常臨床において留意すべき点と思われ,若干の文献的な考察とともにここに報告する.

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