抄録
急性下壁梗塞で前胸部誘導(V1~V4)にてST上昇を示した5症例を経験した、4例はPTCRおよびPTCA施行例でうち3例においては次の3つの状況が同一症例において連続して観察された.1)右冠動脈本幹と右室枝が共に閉塞,2)両者が共に開存,3)右室枝のみ閉塞.
この3例においては右冠動脈本幹が再開通し,右室枝が閉塞した場合にのみ前胸部ST上昇がみられて,右室枝の閉塞に右冠動脈本幹の閉塞が合併するとST上昇は消失していた.したがって前胸部ST上昇は右室枝の閉塞によるものと考えられた.
一般に下壁梗塞では下壁誘導(II ,III,aVF)で,STが上昇するが,前胸部誘導では下壁ST上昇の鏡面像としてST低下がみられる.したがって下壁梗塞と右室梗塞が合併すると,右室梗塞による前胸部ST上昇は下壁梗塞による前胸部ST低下のため相殺されてST上昇を示さないと考えられる.
右室梗塞は下壁梗塞に合併する例がほとんどであり,このため右室梗塞合併例でも大部分の症例では前胸部ST上昇がみられないのであろう.下壁ST上昇の軽度な一部の例において前胸部ST上昇が出現すると考えられる.