1988 年 20 巻 4 号 p. 463-468
心臓弁膜症による様々な合併症を経験しながら,なおかつ妊娠を希望する症例を経験した.本症例の治療経過は,妊娠を希望する心膜弁膜症患者の治療上の問題点を明らかにするのに,きわめて示唆に富む症例と考えられたのでここに報告する.
症例は28歳女性.基礎疾患に僧帽弁閉鎖不全症を有し,第1子出産後(児死亡)に敗血症より感染性心内膜炎をきたし,さらに成人呼吸促迫症候群と僧帽弁疵贅による脳塞栓症を合併した.強力な内科的治療を行ったが,炎症反応の残存や疵贅の増大のため,人工弁置換術の絶対適応と診断された.患者が手術後の妊娠・出産を強く希望したため,人工弁にはIonescr-Shiley生体弁を選択した.術後1年2カ月,帝王切開にて出産した.現在母子ともに1頃調に経過している.
本症例では生体弁を選択したが,その耐久性に疑問がもたれている.しかし耐久性にすぐれる機械弁では,抗凝固剤の使用が必要であり妊娠・出産にかなりのリスクを有する.これら妊娠を希望する心臓弁膜症患者の治療上の問題点に考察を行った.