抄録
ヒト心臓を用いて実体顕微鏡下の微細解剖により房室伝導系各部の局所関係を再検討した.いくつかの問題点を指摘するとともに,ステレオ写真を呈示し従来の図説を補足した.1)田原結節は心筋外面(epi-myocardial)の構造であり,右心房と右線維三角との間に扇状に平べったくひろがった組織塊である.その所在はKochの三角の尖端(前端)にあり,房室中隔の後縁と三尖弁線維輪を指標としてより狭い範囲に限定できる.結節の位置は局所解剖的に一定であり個体による変動はない.冠状洞開口部はある程度個体により変動するので,結節局在の指標としては不適当である.2)ヒス束は原則として膜性部下縁ないし筋性部上縁を走る.通常,多少の違いはあるが右室中隔筋に覆われている.3)右脚は三尖弁の前尖および中間尖に所属する乳頭筋・腱索の起始列と中隔尖所属のそれとの作る逆V字状の領域を中隔尖の起始列に寄って走る.また,Lancisi筋との関係ではその直下ではなく後方を少し離れて走る.右脚の走向は比較的正確に推定できる.4)左脚はヒス束幹の全長より薄膜状に分岐し,左室中隔面の心内膜下というよりもむしろ心内膜内を走る.分束型は必ずしも一定ではなく個体差がある.