抄録
ヒトの心筋炎の免疫学的成因はなお不明であるが,その解明には動物モデルが役立つ.マウスをエンテロウイルスに感染さすと系により心筋炎が起こる.組織病変を修飾する因子にはウイルスの心臓親和性や遺伝的に規定された宿主の免疫応答が含まれる.マウスの系によっては,液性免疫応答が優勢でcyclosporineが治療に有効と考えられる場合や,逆に細胞性免疫応答が優勢でT細胞応答を除去する操作が有効であると考えられる場合がある.受動免疫によりエンテロウイルス感染を予防することや,インターフェロンやribavirinによりウイルス除去を助け疾患を変容さすことも可能である.
ヒトでは心筋炎が原因不明の心不全患者の心筋生検で認められることがある.心膜炎,房室ブロック,発熱症状を伴う場合は自然治癒の可能性はかなり高い.しかしこれらの徴候がなく,臨床的発現が拡張型心筋症に類似する症例の自然治癒率は不明である.心筋炎の実用的な組織診断基準が統一されてきたことで,免疫抑制療法を多施設で検討できるようになった.この場合,心筋炎は心内膜心筋生検で立証され,患者は通常療法と免疫抑制療法へ無作為にふり分けられる.もし免疫抑制療法有効の患者が存在することになれば,原因不明の心不全患者全例に心内膜心筋生検の適応があろう.したがって,今後の研究には免疫抑制療法が有効と思われる患者を同定すること,また至適療法の期間の決定と薬剤の選択などが重要な課題となろう.