抄録
拡張型心筋症(DCM)の家族内発症は一般的に少なく,さらに常染色体性優性遺伝の形式をとるDCMはまれとされている.
今回我々の経験した家系では,発端者は60歳男性,不整脈による動悸を訴え,胸部X線にて心胸郭比60%,心電図上左軸偏位,陰性T波,左室肥大および心室頻拍を認め,心エコー図にて左室内腔の拡大と駆出率の低下,左室造影では左室内腔の拡大とびまん性の壁運動低下を認めた.剖検所見では両心室,心房共に拡張し心室壁の肥厚なく,心筋細胞の錯綜配列や炎症性細胞浸潤は認められずDCMと診断した.発端者の甥にあたる15歳男性は,発端者と同様に心電図,胸部X線,心エコー図および左室造影にて典型的なDCMの所見を呈していた.家系調査にて,同胞8名中6名にDCMの存在が考えられ,さらに親子間3代にわたってDCMが発症した可能性があり,きわめて濃厚な家族内発症を認め優性遺伝と思われるDCMの1家系と考えられた.
DCMの中には,まれではあるが常染色体性優性遺伝の形式をとる疾患群があることが考えられ,今日までに10数家系報告されている.我々の家系もこの疾患群に属し,特に遺伝関係が濃厚なまれな家系と考え報告した.