心臓
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研究会 第23回 河口湖心臓討論会 虚血性心筋障害 冠側副血行循環発達による虚血心筋保護
藤田 正俊
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1990 年 22 巻 3 号 p. 329-340

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抄録

虚血刺激により十分発達した冠側副血行循環が存在していると急性冠閉塞時の虚血心筋保護に有益であることは実験的にも臨床的にもよく認識されている.側副血行循環は,急性心筋虚血に際しては側副血行路が開大することによって促進され,慢性的には反復虚血刺激による血管新生により発達させられて虚血心筋への血液供給路として役立つ.この冠側副血行循環発達を促進させる薬剤の発見は虚血性心疾患の新しい治療法の1つとなりうるものと思われる.最近,意識犬を使った実験で,我々はヘパリンが左回旋枝の2分間閉i塞を1時間ごとに繰り返すことによる左回旋枝灌流域への側副血行循環発達を促進させることを証明した.さらに,我々はこの事実を労作性狭心症の治療に応用しヘパリン運動療法を新しく開発した.ヘパリン5,000単位静注10~20分後にtreadmill運動負荷を標準Bruce法により強い狭心痛が生じるまで1日2回計20回行った.10例での最大運動時間は,治療前後で6.3±1.9分(標準偏差)から9.1±2.2分へと有為に(p<0.001)増加した.0.1mVのST低下発現時のdoubleproductも治療により19%(p<0.05)だけ増加した.さらに,ヘパリン運動療法による運動耐容能の改善が側副血行循環の発達を伴うことが冠動脈造影により直接的に証明された.この治療による冠側副血行循環予備能の増加は,運動負荷T1-201心筋シンチグラフィーで確認された.同じ運動負荷レベルでの心筋虚血の程度と広がりを示すSeverityscoreは治療前を100%とすると治療直後には80±22%(p<0.05)となり治療16±6カ月後には55±34%とさらに改善した.以上,ヘパリン運動療法は,虚血心筋への血液供給を増加させることによる虚血性心疾患の新しい治療法として有用であると結論された.このように冠側副血行循環は虚血心筋保護に対して重要な役割を担っている.今後,ヘパリン運動療法のように心筋虚血に対する生来備わった冠側副血行循環発達を促進させる治療法の開発が望まれ,血管新生の詳細な機序の解明が待たれる.

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