心臓
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研究 総肺静脈還流異常症の肺血管病変に関する組織計測学的研究とリンパ管拡張症について
八巻 重雄常本 実島田 宗洋石澤 瞭中山 信吾遠藤 雅人畑 正樹
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1991 年 23 巻 8 号 p. 873-880

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抄録

総肺静脈還流異常症(TAPVR)の剖検例をもとに肺小動脈,肺静脈系に組織計測を行い肺血管病変の特異性と血行動態との関係を検討し,さらにリンパ管の特異性にも検討を加えた.対象に無脾症,肺動脈狭窄症を伴わない生後2日から1歳7カ月(平均2.2カ月)までのTAPVR剖検例60例(肺動脈圧測定例32例)を用いた.対照例として肺高血圧症を伴う20例の心室中隔欠損症(VSD)と15例の正常例を使用した.
脈小動脈中膜厚,肺静脈中膜厚は諏訪の計測法で求めた.TAPVRの肺小動脈中膜厚は平均12.7μで肺静脈中膜厚は7.6μであり,両者ともに正常例やVSD例より有意に厚く,加齢による厚さの変化は認めなかった.肺静脈閉塞(PVO)のある症例はない症例に比べ肺小動脈,肺静脈ともに中膜は厚かった.
TAPVR症例では肺小動脈中膜厚はVSDと同様に肺動脈圧と相関したが,同じ肺動脈圧レベルでみると肺小動脈中膜は常にVSDより厚かった.TAPVRの肺静脈中膜厚も肺動脈圧と相関した.また,肺動脈圧は肺小動脈中膜厚と肺静脈中膜厚とに重相関し,本症の肺動脈圧は肺動脈と肺静脈の中膜の厚さの両因子を反映していると考えられた.
内膜病変はIPVD法とHE分類法で重症度を表わしたが,TAPVRではVSDより病変は軽度であり,肺小動脈中膜が厚いことが内膜病変を防止していると考察された.肺静脈内膜の線維性肥厚はVSDには認めなかったが,TAPVRの23例(38%)に存在した.縦走平滑筋細胞の増殖はTAPVRの1例に認めた.
リンパ管拡張症は正常例にはなく,VSDの1例にのみ認めたが,TAPVRには37例(62%)に認め本症に特異的であった.リンパ管拡張症に間質の気腫を合併し,術後死亡した症例が8例あり,気道内圧を上げないようにするなど細心の呼吸管理が必要と結論された.

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