1992 年 24 巻 1 号 p. 107-113
コレステロール心膜炎は,Alexanderが1919年に報告したまれな疾患であり,本邦では1926年大須賀以後,報告例は1990年現在20例にすぎない.
症例は33歳男性.昭和63年6月の定期検診では心拡大(心胸郭比66.5%)あったが自覚症状ははなし.平成元年10月上旬より感冒様症状出現.浮腫は眼瞼・下腿より始まり全身性.心胸郭比75%,心エコーにて心タンポナーデの診断を得,心嚢液650mlを穿刺排液して,心タンポナーデから脱した.心嚢液は黄金色を呈し,その液中には多数のコレステロール結晶を認めた.コレステロール値は血清/心嚢液71/125mgと心嚢液中で高値を示した.結核・一般細菌・ウィルス学的検査陰性.甲状腺機能正常.心嚢液中のLDL-cholとapoBの比(LDLchol/apoB)は,血清と比較して著明に高く,コレステロール結晶の成因と関連するものと思われた.
以上の報告に加え,本邦既報告例についての文献的考察も行った.