1992 年 24 巻 6 号 p. 683-689
心室中隔欠損に,右単冠動脈が原因と考えられる拡張型心筋症様の心不全を合併した乳児例を経験したので報告する.症例は4カ月男児.新生児期より哺乳力の低下,体重増加不良がみられていたが,4カ月時に初めて心雑音を指摘され当科受診,高度の心不全を呈していたため入院となった.心エコー上,小さな漏斗部心室中隔欠損と拡張型心筋症様の左心機能低下がみられ,右単冠動脈症が疑われた.201Tl心筋SPECT(single photon emission computedtomography)では左室の著明な拡大と中隔部位外のTlの取り込みがほとんどみられず,これは欠損側の冠動脈還流部位にほぼ一致した.大動脈造影に依ってLipton分類RII-Aの単冠動脈症と診断した.心電図上,ST-T部が日々変化しており心筋への欠流の不安定さが示唆された.利尿剤,Ca拮抗剤,α-blockerの併用に依って,一時的に安定した血行動態を得たが,8カ月時に肺炎を契機として心不全が進行し死亡した.
単冠動脈症に心室中隔欠損のみを合併した例,また拡張型心筋症様の心不全を合併した例は非常にまれであり,小児期の報告は本邦では初めてのものである.本例は
単冠動脈により慢性心筋低酸素状態にあったと考えられ,その原因について若干の考察を行った.