1994 年 26 巻 5 号 p. 559-563
腎梗塞は腎動脈の閉塞によって起こるまれな疾患であるが,外傷性以外の多くは心疾患を有するといわれる.我々は,急性腎梗塞2例と陳旧性腎梗塞1例を経験し,経食道心エコー図法(TEE)にて興味ある所見を得たので報告する.症例1は61歳の男性で,以前VVIペースメーカー植え込み術を受けていた.腹痛で受診し,腹部超音波検査・腹部造影CT等から急性腎梗塞と診断した.抗凝固療法を行い,慢性期にTEEを施行したところ,高度の左房内モヤモヤエコーと左心耳内微小血栓を認めた.症例2は71歳の男性で約20年前から心房細動があった.狭心症の疑いで心臓カテーテル検査を行い,検査30時間後より突然臍周囲の疼痛が出現した.腹部造影CTにて急性腎梗塞と診断し,血栓溶解・抗凝固療法を行っで慢性期にTEEを施行したところ,高度の左房内モヤモヤエコーを認めた.症例3は55歳の男性で心房中隔閉鎖術・僧帽弁置換術後の患者である.右視床出血を発症し,ワーファリンを減量してリハビリを行っていたが,経胸壁心エコー図法で左房内血栓を認め,TEEで左房内に3個の血栓と高度のモヤモヤエコーを認めた.その後,腹部超音波検査および腹部造影CTで,左腎に楔状の高エコー領域およびLDAを認めたために陳旧性腎梗塞と診断した.我々は腎梗塞の3例を経験し,すべての症例に高度の左房内モヤモヤエコーを認め,うち2例に左房内血栓を認めた.このことは腎梗塞発症の背景因子として左房内血行動態が重要であることを示唆しており,その観察にはTEEが有用であると思われた.また,左房内モヤモヤエコー・血栓を認める症例には,腎梗塞予防としての抗凝固療法の必要性が示唆された.