心拍の遅い房室回帰性頻拍(AVRT)中にA波の興奮伝播様式の変化を認めた間欠性WPW症候群の1症例を経験した.入院時心電図所見は洞調律でΔ波を認め,V1でrSパターンを示し,その後一過性にΔ波の消失がみられ,間欠性WPW症候群と診断された.頻拍時は,心拍数102/分,II, III, aVFでQRSの直後に陰性P波を認め,narrow QRSの発作性上室頻拍(PSVT)を呈した.臨床電気生理学的検査では,PSVT時の最早期興奮部位は冠静脈洞(CS)で,著明なAH時間の延長を認め,また右室ペーシングによる室房伝導最早期部位はCS入口部で,奇異性心房捕捉現象も認め,AVRTと考えられた.さらに,心房早期刺激法によるjump upやHBEのA波が最早期でAH,HA時間ともisoproterenol負荷で短縮するPSVTを認め,房室結節二重伝導路の合併が示唆された.このことより,AVRT中のAH時間延長は順行伝導がslow pathwayを伝導するためと思われた.また本例ではPSVT中のA波の興奮順序がCS-ヒス束(HBE)-下位右房(1LRA)-高位右房(HRA)とCSが最早期興奮部位のPSVTから,HRAのA波がCSのA波よりも徐々に早くなりHRA-1LRA-HBE-CSとHRAが最早期興奮部位のPSVTへと変化し,同時に体表面心電図上のP波も,最初II,IIIで陰性のものが徐々に陽性に変化してゆく過程をとらえ,以後持続した.この現象はAVRTのA波が心房内を伝導する際にHRAのA波にentrainmentされたものと推察された.