1999 年 31 巻 3 号 p. 167-171
大動脈弓閉鎖の1例を経験したので報告する.症例は9歳3カ月の男児.4歳7カ月時に左外斜視の手術を受けたが,この時血圧の異常は指摘されなかった.今回,1週間ほど持続する腹痛を主訴に当科を受診し,心雑音と不整脈を指摘された.著明な上肢高血圧と左室肥大があり,心エコーにて単純型大動脈縮窄が疑われた.大腿動脈より挿入したカテーテルを大動脈峡部より上に進めることはできず,下行大動脈圧は108/98mmHgであった.右上腕動脈からのカテーテルで測定した上行大動脈圧は252/140mmHgであった.心血管造影では左鎖骨下動脈の末梢で血流が途絶し,左右内胸動脈からの側副血行路を認めたが,他の合併心奇形は認めなかった.造影所見より,大動脈縮窄の内腔が閉塞し大動脈弓閉鎖に至ったものと考えられた.患児は端々吻合による大動脈弓再建術を受け,その後良好に経過している.術中の切除標本では,閉鎖部に中膜の肥厚を伴う線維筋性異形成を認めた.本症例は4歳時には安静時に上肢高血圧をきたさない程度の大動脈縮窄が,比較的急速に閉鎖に至ったと考えられる点で興味深く,文献的考察を加えて報告する.